都会のランドマークともいえるタワーマンション。上層階からの眺望など魅力が多いタワマンに、憧れを抱く人も多いでしょう。人気があるため資産価値が高く、投資対象と考える人もいます。
しかし、建物は築年数が経過すると劣化するため、定期的なメンテナンスや修繕が必要です。タワーマンションでは、大規模修繕を行うための修繕費を毎月積み立てます。この修繕積立金は定期的に見直されるため、30年後の支払いが不安な方もいるでしょう。
本記事では、タワーマンションの30年後について、修繕費や資産価値がどうなっているのかを考えてみます。
目次
タワーマンションの30年後を考える
タワーマンションの魅力は永遠ではなく、建物には寿命があります。ここではタワーマンションの資産価値について30年後の姿を分析してみます。
タワーマンションの資産価値
不動産の資産価値は、売れる価額と考えるのが一般的です。建物の場合は耐用年数があり、いずれは朽ちて価値がなくなるため、解体費用というマイナスの評価額を考える必要があります。
タワーマンションの資産価値についても、上記の原則的な考え方は変わりません。
マンションとして機能する期間は利用価値があり、資産評価は高いでしょう。老朽化して利用価値がなくなれば、資産としての評価は大きく下がります。
資産価値は変化する
タワーマンションと呼称される初めてのマンションは、住友不動産が1976年に建てた埼玉県与野市の「与野ハウス」です。
東京カンテイ「2021年 タワーマンションのストック数(都道府県)」によると、2021年12月現在では、国内は1,427棟37万5,152戸のタワーマンションストック数があります。
タワーマンションは、立地条件がよく、敷地の有効利用を図れるよう容積率の高い地域に限定して建てられます。しかしそのような好条件の土地は多くないため、やがて立地条件が若干劣るエリアでも建てられるようになった傾向があります。
立地条件は、資産価値に大きな影響を与えます。しかし近年は、立地条件としての利便性以外の要素が、タワーマンションの資産価値に影響する事例がみられるようになりました。
2018年に発生した北海道胆振東部地震では、北海道すべての地域で長時間の停電が起こるブラックアウトという現象がありました。札幌市中心部のタワーマンションでも、エレベーターや上下水道が使用できない状態が長く続きました。
2019年には台風による大量降雨により地下の電気室が浸水し、長期間電気が使用できない状態になりました。
8階建て程度までの高層建築であれば、徒歩で階段を上り下りできます。しかし高さが60m以上の超高層建物であるタワーマンションでは、難しいでしょう。
災害に対する安全性が、資産価値にも影響を及ぼすようになったと考えられます。このように、資産価値として評価されるポイントは変化するため、幅広い視点が必要です。
30年後のタワーマンション
マンションの寿命がどれくらいになるのか、明確なデータはありません。しかしこれまでに建替えを実施したマンションの築年数の平均は約60年といわれます。短いものでは、築40年を経過する前に建て替えられた事例もあります。
タワーマンションは一般的なマンションよりも、耐候性と耐久性に優れた建築資材が使われています。そのため寿命は比較的長いともいわれます。
しかし建物の寿命は、大規模修繕などを適切に行うことで保持されるもので、必ずしもタワーマンションだから寿命が長いとはいえません。
30年後のタワーマンションを考えると、建替え時期といわれる築60年の折り返しです。大規模修繕が少なくとも1度は、すでに実施されていると考えられます。
マンションは区分所有法に基づき、区分所有者全員が組織する管理組合が共用部の運営管理や区分所有者間の権利調整などを行います。
大規模修繕工事を含めた長期修繕計画や修繕積立金の管理は、組合の最重要テーマといえます。30年経過していると、修繕積立計画の見直しが行われ、修繕積立金の値上げが実施されているケースも多くなるでしょう。
また、築30年になると新築時点で購入した所有者は、若くても50歳代であり80歳代の高齢者も多くなっているでしょう。タワーマンションに限らず、管理組合を構成する区分所有者の年齢が高くなるほど、管理組合活動は停滞する傾向があります。
将来的に、資産価値の維持や管理の健全性に対する疑問や不安が生じるおそれがあるかもしれません。
修繕費は30年後どうなる?
建物は適切なメンテナンスを繰り返すことで、十分な耐久性能を発揮できます。逆にメンテナンスを怠ると、本来の耐用年数を超えずに役割を終えてしまいます。
タワーマンションの資産価値を維持するには、修繕積立金は重要な要素です。
修繕費について
タワーマンションの大規模修繕では、以下のような屋根や外壁の修繕工事や、共用設備の交換などを行います。
- 屋根の防水工事を再施工する
- 外壁パネルのシーリングや表面仕上げの劣化状況に応じた修繕
- エレベーターの交換
- 設備配管や機器の交換
工事は部位によって異なりますが、約10〜30年の周期で行われます。
工事費用は毎月管理組合が、修繕積立金として集金と管理をします。積み立てする金額は、分譲当初にデベロッパーが計画立案した長期修繕計画に基づいて決まっていることが多いと考えられます。
そのためマンション分譲時の購入しやすさを考慮して積立金を低めに設定しており、大規模修繕工事の時点で積立金不足となるケースもあるようです。
修繕費の値上げタイミング
新築から15年が経過するころに、第1回の大規模修繕工事が行われます。実際の工事費用が明確になると、修繕積立金が足りているのか、あるいは足りないため別途資金の調達が必要かがわかります。
さらに、第2回目の大規模修繕工事に向けて、修繕積立金の見直しが行われます。
修繕積立金の見直しでは、次のような理由で値上げされることがあります。
- 分譲時に設定した修繕積立金がそもそも安すぎた
- 工事費用や資材費などが上昇した
また、修繕積立金算定の根拠となる長期修繕計画は、5年ごとに見直すことが推奨されています。そのため、修繕積立金も5年ごとに見直しを行うケースが多いようです。
30年後の修繕費は値上がりしている?
タワーマンションは耐久性の高い資材などを使用することが多いですが、紫外線や雨風に長期間さらされる外部の劣化は防げません。
約15年のサイクルでメンテナンスや修繕工事を行わないと劣化が進み、比較的簡単な修繕で済むものも大がかりな工事が必要になります。
適切な長期修繕計画は、タワーマンション全体の資産価値を維持するものです。約60年といわれる建替え時期まで、健全な状態を保たなければなりません。
そのためには、長期修繕計画をより適切に見直す必要があります。60年の折り返しである築30年後の修繕費は、値上がりしている可能性が高いといえるでしょう。
早めに売却を検討しよう!
タワーマンションは、一般的なマンションよりも高額です。中には、販売坪単価が1千数百万円におよぶものもあります。
坪単価が高いマーケットは購入層の物件選択眼が厳しい傾向があり、築年数が経過するほど売れにくい面があります。30年後に修繕費が値上がりするリスクを考えても、早めに売却時期を検討しておく必要があるでしょう。
ここではタワーマンションを売却するタイミングやコツを紹介します。
マンションと一戸建ての違い
マンションの売却時期は、一戸建住宅よりも慎重に考える必要があります。
前述したように、マンションの建替え時期は約60年で到来します。
建替え時期まで所有し続け、子や孫の世代まで継承する選択肢もあります。しかし、建替えが困難な状況と予想されるマンションは、建替え時期まで所有することは望ましくありません。
マンションと一戸建住宅との違いは、処分のしやすさです。一戸建住宅では、土地と建物の売却を所有者の自由意志で決定できます。
しかしマンションは、所有者の自由意思で売却できるのは専有部分のみです。建替えや敷地全体の売却は、個人の意思だけではできません。
つまりマンションでは、区分所有者全員の意思決定の結果が、個人に影響を与えます。そのような意味で売却がしやすい時期としにくい時期があり、売却のタイミングを慎重に考える必要があるといえます。
タワーマンションの売却時期
タワーマンションの売却時期は、一般的なマンションと同様に、慎重にタイミングを図る必要があります。
タワーマンションを建て替える場合は、区分所有法の規定に従う必要があります。しかし、以下のように一般的なマンションと異なる点があります。
- 管理組合を構成する区分所有者の人数が多い
- 自分が住むためではなく投資用に所有する人が多い
- 大規模修繕費用が高額になる
- 建替えの際に必要な解体工事の費用が高額になる
マンションの建替えは区分所有者全員の5分の4の賛成で決議されますが、人数が多いほど意見をまとめることは難しいものです。さらに、自ら住むためのマンションではない場合、管理組合総会への出席率が低下し総会成立要件を満たせないなど、管理組合が機能しないおそれがあります。
また、大規模修繕工事についても、当初の予定とは異なり多額な費用になり、修繕積立金の増額や臨時的な自己負担金などが発生するおそれがあります。
すべてのタワーマンションに該当するわけではありませんが、一般的なマンションに比べ、将来的に不安定といえるでしょう。
特に投資用にタワーマンションを所有している人は、早めに売却を検討するのが賢明といえます。
失敗しないマンション売却
所有しているタワーマンションの資産価値を正確に把握するには、現況の正確な把握と管理状態の健全性を検証する必要があります。
そのうえで、長期にわたって所有し続けるか早急に売却すべきか、あるいはタイミングを見て売却すべきなのか判断します。
しかし判断するには、幅広く専門的な知識が必要です。そのため、信頼できる不動産会社に相談して、目的に沿った今後の方針を決めましょう。
高田 一洋(たかだ かずひろ)
一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
【保有資格】宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産仲介営美・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師等を務める。豊富な不動産知識に加え20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。