家の劣化や子どもの独立などを理由に老後になってから住み替えをする人は多いです。
老後になってから家を手放し、新居に住み替えることは大きな決断であり、しっかり準備をしておかなければ失敗につながることもあります。
老後の住み替えで起こりやすい失敗と、成功させるためのポイントについて解説します。
目次
老後の住み替えで起こりやすい失敗
若い時期の住み替えと違い、老後になっての住み替えは注意点が多く失敗してしまうと取り返しがつかないことがあります。
不利な借入条件で融資を受けてしまう
老後で住み替えをする際に住宅ローンを組む場合、若い時期よりも借入条件は不利になります。なぜなら、若い時期よりも収入が少なく、病気や死亡リスクも高いからです。
金融機関からすると老後の住宅ローンは不良債権(貸したけど予定どおりに回収できないこと)となるリスクが高く、そのリスク補填として金利が高く設定されることが一般的です。
融資を受ける金融機関を選ぶときは、借入条件の比較検討をすることと、自身の経済状況に見合った自己資金の割合を設定することです。
老後の資金がなくなる
住宅ローンを組まずに自己資金で住み替え費用を捻出するケースもあります。その場合は老後に必要な資金が不足してしまい、老後破産するリスクが高くなってしまいます。
その結果、家のメンテナンス費用も捻出できなくなってしまい、快適な住環境を維持できなくなるおそれがあります。老後は若いときよりもリスクに対しての柔軟な対応ができないため、無理のない資金計画を立てるようにしてください。
毎月の返済が苦しくなる
老後に住宅ローンを組むと高い金利での借入となってしまいますが、金利に関わらず借入期間が短くなると毎月の返済額は増加します。
これは、金融機関には完済時年齢が設けられていることが原因となっており、どの金融機関も80歳前後を返済完了時の年齢として設定しています。たとえば、45歳で住宅ローンを組む場合は最大35年の借入ができますが、60歳で借入した場合の返済期間は20年となります。
借入期間が短くなると、毎月の返済負担額が増えるため、生活を圧迫することになります。そして、万が一返済が困難となってしまった場合には、せっかく購入した家を売却することにもなるでしょう。
なお、一定の条件のもとシミュレーションした返済期間と月々の返済額は以下のとおりです。
※以下条件でのシミュレーション
- 借入額:3,000万円
- 金利:固定1.0%
- 返済方式:元利均等
返済期間 | 月々返済額(円) |
---|---|
35年 | 84,685 |
30年 | 96,491 |
25年 | 113,061 |
20年 | 137,968 |
15年 | 179,548 |
10年 | 262,812 |
5年 | 512,812 |
環境の変化に対応できない
老後の住み替えで失敗するケースは資金面だけではありません。
通い慣れた病院やスーパー、美容院などを変えることになり、慣れない街の勾配に悩まされることもあるでしょう。また、住んでからわかる騒音や振動、臭いなども、慣れるまでは気になる人も多いです。
また、生活環境以外にも交流のあった近隣住民と離れることで、疎外感を抱く人もいます。その結果、新しい生活環境でコミュニケーションを取ることに消極的になってしまい、充実した新生活が送れないおそれがあります。
老後の住み替えはやめるべき?
老後の住み替えは失敗する可能性が高いため、検討をやめるべきでしょうか。
結論からいうと、老後の住み替えは非常に有意義なものです。以下で解説する老後の住み替えに関するメリットをチェックし、前述した失敗のリスクと合わせて検討しましょう。
住み替えによって生活を整えられる
住み替えをすることで生活環境や家の間取りが変わってしまうのはストレスになりますが、
反対に以前住んでいた家よりも快適な住環境になることもあります。
たとえば、夫婦と子ども2人で暮らしている家であれば、3〜4LDKの間取りが一般的です。また、子どもの通学を考慮し小学校に近いことを優先するケースもあるでしょう。
しかし、子どもが成長し独立したあとはこういった間取りや生活環境は、老後の生活にそぐわないことが多いです。
そのため、老後に住み替えをすることで、夫婦2人で老後を過ごすためのライフスタイルにすることができます。
資産価値の高い家を残せる
住み替え先が新築であれ、リフォーム済みの中古戸建であれ、長年住んだ家よりも資産価値が上昇する可能性が高くなることが多いでしょう。
そのため、ただ老後の生活を送るだけでなく、資産価値の高い家を子どもに残すことができます。価値のあるものを残せるうえに、バリアフリーの配慮がされた住まいであれば、子どもが親の心配をする負担も減ります。
相続対策としても有効
資産価値の高い家を残すことは、相続対策としても有効です。
不動産などの資産は現金よりも相続税評価額が低くなります。たとえば3,000万円の現金よりも3,000万円で購入した家のほうが相続税の課税額は低くなります。
老後の住み替えによって資産価値の高い家を手に入れ、同時に相続対策になることも老後に住み替える大きなメリットのひとつです。
老後の住み替えを成功させるポイント
老後の住み替えを成功させるためには、ポイントについて紹介します。
住み替えは何度もできるものではないため、以下で解説するポイントをチェックしたうえで、老後の住み替えを検討しましょう。
資金計画を慎重に行う
住宅ローンの返済や自己資金の割合など、老後の住み替えで「資金」に関する失敗は多いです。そのため、精度の高い資金計画が必要になります。
そこで活用したいのが、お金のプロであるファイナンシャルプランナーへの相談です。ファイナンシャルプランナーにライフプランを依頼し、人生の支出と収入バランスを把握することで、正しい住み替え費用の把握と自己資金額の設定ができます。
また、老後は住み替え以外にも、保険や年金といったお金の問題を抱えることが多いですが、こういった疑問点や不安点を同時に解消できるのも、ライフプランの特徴といえます。
このことからも、老後の住み替えはライフプランをベースとした精度の高い資金計画を実施することが重要となるでしょう。
間取りにこだわる
老後を夫婦2人で暮らす場合、間取りの設計や選択には時間をかけましょう。
子どもと住んでいるときよりも部屋数を減らすことができる分、高齢者の暮らしに合った間取りにすることがポイントです。たとえば、段差を極力なくしたりドアは開閉時に身体の移動が不要な引き戸タイプにしたりするとよいでしょう。
また、段差による転倒を極力防ぐという意味では、平屋に住み替えるという選択肢もあるでしょう。これ以外にも家にいながら趣味を楽しめる間取りなど、家庭によってこだわりポイントは変わります。
そのため、老後の住み替えはまず、家族で老後の生活を話し合い、理想の生活を実現するための間取りをしっかり検討しましょう。
老後の住み替えは不動産会社選びも重要
老後の住み替えは家を売却することからスタートするため、通常の不動産購入よりも複雑なステップになります。
たとえば、住んでいる家を先に売却するのか、あとから売却するのかでも仮住まいの要否が変わります。また、住んでいる家に住宅ローンが残っている場合、自由に使える売却益が少なくなってしまいます。
このように、住み替えにはさまざまなポイントがあるため、住み替えに慣れている不動産会社に依頼することが重要です。
住み替えに強い不動産会社には売却と販売の実績数が多いという特徴がありますが、なによりも信頼できる会社に依頼することが重要です。信頼できる不動産会社を選ぶことが、老後の住み替えを成功させるポイントといえるでしょう。
高田 一洋(たかだ かずひろ)
一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
【保有資格】宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産仲介営美・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師等を務める。豊富な不動産知識に加え20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。