50代は子どもの独立など家族構成の変化をきっかけに、住宅の住み替えを考える人が増加する時期です。
国土交通省が公表した「令和4年度 住宅市場動向調査」によると、はじめて住宅を取得するタイミング(一次取得)は30代と40代が多いのに対し、2回目以上となる二次取得では、50代と60代がピークとなります。
子育てが一段落することや親の老後の世話など、ライフスタイルが変化するにつれ、住み替えの需要が増しているから、50代以降で住み替え需要が増加しているのかもしれません。
50代で住み替えを成功させる計画の立て方や、注意点について解説します。
目次
50代の住み替えはベストタイミング?
50代は住み替えのベストタイミングといわれることがあります。なぜ、ベストと考えられるのでしょうか。主な5つの理由を取り上げます。
子どもの独立で夫婦に合う間取りを選べる
50代は子どもが独立して、夫婦だけになることが多い時期です。30代前半に生まれた子どもが、大学卒業と同時に家を出ると子ども部屋が不要になるため、家の空きスペースが一気に増加します。
これまで子育てを優先してきた間取りを、考え直す時機になります。保有する戸建住宅をリフォームしたり、売却して夫婦に合った間取りの部屋に住み替えたりを検討するよいタイミングとなるでしょう。
まだ住宅ローンを組める
50代はまだ住宅ローンが組める世代です。住宅ローンには年齢制限がありますが、申込時の年齢を20歳〜70歳としていることが多く、50代でも問題なく住宅ローンを組めます。
50代は審査の面でも有利です。大半の方が現役として働いているため、資産や収入が安定しているとみなされます。これまでに貯めた貯蓄があれば、さらに審査で有利になるでしょう。
また、子育てにお金がかからなくなるため、住宅ローンに回せるお金が増えることも、住宅ローンを組むのに有利な点です。
ライフスタイルに合った家を選べる
50代になると30代や40代に比べて、ライフスタイルが安定してきます。子どもたちが家を出て、夫婦だけで老後を過ごしたり、単身で老後を過ごしたりするなど、老後を見据えたライフスタイルを確立する時機でもあります。
50代の住み替えは、自分や配偶者に適した「終の棲家」を探すことでもあります。自分たちの理想とするライフスタイルを追求し、生活に最も適した家を選べるのは、50代の住み替えならではの特徴です。
老朽化した自宅を売却できる
子どもが成長して空き部屋が多くなり、家の広さを持て余しているようであれば売却するのも選択肢の一つです。
30代で建てた住宅は、50代のころには築20年を超える物件となっています。そのため、建築当初に設置した設備の多くが老朽化し、更新しなければならない時期となります。
自宅を修繕してそのまま住むことも可能ですし、まだ築浅のうちに売却してライフスタイルに合った家を購入したり、賃貸物件に移ったりといったことができます。
気力や体力が十分なうちに引っ越しできる
50代は健康なうちに確実に引っ越せる最後の時期です。30代や40代に比べると体力は落ちていますが、定年間際の60代に比べると体力があり、十分、引っ越しに対応できる年代だからです。
引っ越しそのもので体力が必要という問題と別に、引っ越し後の地域になじむためにも気力や体力が必要です。気力・体力ともに引っ越しに耐えられる50代のうちに、終の棲家を決めてしまうことで、老後の心配事を減らすこともできるでしょう。
50代の住み替えで注意するべきこと
50代の住み替えには色々なメリットがあるとわかりました。しかし、注意しなければならないこともあります。ここでは、注意すべき6つのポイントを解説します。
老後の資金計画をしっかり立てる
老後の資金計画をしっかり立てることは、極めて重要です。子どもが独立し、当座の出費が減ったからといって、無計画に住み替えを実行するのはハイリスクです。30代や40代と違い、退職後も住宅ローンの支払いが続くことがあるためです。
資金に余裕があるからといって、高額な物件に手を出してしまうと住宅ローンの支払いが大変になり、老後の生活水準が低くなってしまうおそれがあります。また、退職金をあてにしすぎるのもリスクがあります。
住宅ローンを支払って安定した老後の生活が送れるよう、しっかりとした資金計画を立案しなければならないでしょう。
賃貸と購入のどちらにするか決める
住み替え先を賃貸物件にするか、新たに購入する物件に住むかも大きな課題です。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
賃貸 | 引っ越しやすい初期費用が少なくて済むメンテナンスの負担が小さい | 家賃や更新費用が必要高齢になると部屋を借りにくい |
購入 | 資産として残せる税金の優遇措置が受けられるリフォームできる | 初期費用が高い住宅設備の維持や税金の負担を考慮しなければならない |
賃貸にしても、購入にしても、メリットとデメリットがあるため、両者を比較・検討して自分のライフスタイルに合ったほうを選択するとよいでしょう。
戸建とマンション、老後はどっち?
購入するにしても、戸建とマンションのどちらがよいか迷うかもしれません。老後は、戸建住宅とマンションのどちらに住んだほうがよいのでしょうか。それぞれのメリット・デメリットを比べてみましょう。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
戸建 | 住宅ローン支払い後の居住費が安い管理費や修繕積立金がいらない | 建物の維持管理が必要防犯上の注意が必要 |
マンション | メンテナンスの手間がかからない好立地であることが多い | 管理費・修繕積立金が必要騒音トラブルの可能性がある |
戸建は自由度が高い半面、建物を自分で維持・管理する必要があります。マンションは、メンテナンスが楽なものの、管理の支払いや修繕積立金の問題、上下階の騒音トラブルなどに注意しなければなりません。
地方移住は失敗リスクがある
都会に住んでいる方の中には、老後は田舎に住みたいと考え地方移住を検討する方もいるかと思います。しかし、よく考えずに地方に移住すると「こんなはずじゃなかった」という失敗をするかもしれません。
地方は都会に比べると公共交通機関が手薄で、自動車がないと生活の難しい地域がほとんどです。買い物・病院などほとんどの場面で自動車が必要ですので、都会と同じように暮らすのは困難です。
また、地域ごとのルールもあるため、そのことを知らずに移住してしまうと、元からいた住人とトラブルになるリスクもあります。地方移住をする場合は、しっかりと情報収集し、何度も現地に足を運んで慎重に決めたほうがよいでしょう。
成功する住み替え計画の立て方
50代からの住み替えを成功させるには、どのように計画を立てればよいのでしょうか。計画を立案する際の5つのポイントを解説します。
査定で持ち家の売却価格を調べる
住み替えを実行する際、先に持ち家を売却してから新居を購入する方法と、新居を決めてから持ち家を売却する方法の2つがあります。どちらの方法を選択するにしても、持ち家の査定価格は早い段階で調べたほうがよいでしょう。
正確な査定額がわかっておけば、新居の購入にあてられる予算のめどがつくため、資金計画を立てやすくなります。不動産は、不動産会社に売却の仲介を依頼しても、売れるまで数カ月の時間を要するのが普通です。
新居を検討するのと同時に、現在の家の査定も進めておくのが無難です。
住み替えにかける費用を決める
持ち家の査定価格を調べたら、その金額に基づいて住み替え費用を計算します。50代の場合、30代や40代のように長期のローンを組むのは得策ではありません。新居を購入するにしても、賃貸にするにしても、定年退職後のことを考えて住み替え費用を計算しましょう。
定年退職後の収入を把握する
退職後の収入を把握することも重要です。退職後の収入のベースとなるのは年金や再雇用の給与、投資などの資産です。これらのうち、年金は「ねんきんネット」でいつでも最新情報を調べられます。
「ねんきんネット」では、加入履歴や納付状況、年金見込み額の確認ができるため、老後の収入把握の基本情報を得られるでしょう。
高田 一洋(たかだ かずひろ)
一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
【保有資格】宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産仲介営美・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師等を務める。豊富な不動産知識に加え20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。