60代になるとこれまで住んでいた家は、広すぎたり段差があったりして、住みにくさが気になってきます。そういった住みにくさを解消するため、住み替えがおすすめです。しかし住み替えには費用がかかるうえに、必ずしもうまくいくとは限りません。
60代の住み替えを成功させるためのポイントを解説します。
60代で住み替えるときの選択肢は?
60代での住み替えはどのような家を選べば後悔せず、住み替えられるのでしょうか。後悔しないためには、選択肢となる住宅の特徴を知ることが大切です。
60代の住み替えの選択肢には、次の7つがあります。
- コンパクトな住宅へ住み替える
- シニア向け住宅へ住み替える
- 子ども世帯と同居または近居する
- 郊外の住宅へ住み替える
- マンションへ住み替える
- 賃貸住宅へ住み替える
- いまの住宅を建て替えまたはリフォームする
それぞれの特徴を理解して、住み替え後にどのような暮らしを送れるのかイメージできれば、老後のライフスタイルに合わせた住み替え先を選べるでしょう。
コンパクトな住宅へ住み替える
3LDKや4LDKなどファミリー向けの間取りから、1LDKや2LDKなどコンパクトな間取りの住宅へ住み替えるのもよいでしょう。子どもが独立して住む人数が減ると、いままでの住宅では広すぎたり使わない部屋ができたりするためです。
コンパクトな住宅に住み替えれば、必要な部屋だけですっきりと生活できます。不用品を処分できて、掃除が楽になるでしょう。光熱費や管理費などの維持費を抑えられるのもメリットです。いまの住まいを高額で売却できれば、売却差益を得られて老後資金にすることも可能です。
シニア向け住宅へ住み替える
サービス付きシニア向け住宅やシニア向け分譲マンションなどは、バリアフリーなどシニアが暮らしやすい設備が整っています。必要に応じて見守りサービスや、生活支援サービスなど体調に配慮したサービスが受けられます。同世代のシニアと交流する機会があるため、孤独を感じずに新しい友人と楽しい時間を過ごせるでしょう。
ただし、一般的な分譲マンションや賃貸住宅より費用が高いため、しっかりと資金計画を立てる必要があります。また、一定の介護が必要になると外部の介護サービスの利用や、退去を求められることがあります。
子ども世帯と同居または近居する
子ども世帯と同居したり近くに住んだりすることで、親世帯と子ども世帯どちらもメリットを享受できます。
親世帯にとっては、子どもがそばにいて助けてもらえる心強さと安心感があります。子ども世帯にとっても、親の体調などを把握しやすいため安心です。孫の面倒を見てもらえれば、育児の負担を減らせるでしょう。
ただし、お互いに干渉しすぎると関係がうまくいかなくなるケースがあります。同居するために二世帯住宅を購入したり、いまの住宅をリフォームしたりすると、将来的に売却しにくい家になるというデメリットもあります。
同居や近居は長いスパンでライフプランを考える必要があるため、子ども世帯とよく話し合うことが大切です。
郊外の住宅へ住み替える
都心の不動産を売却して、郊外の住宅へ住み替えるのもよいでしょう。高齢になると通勤や子どもの通学の必要がないため、交通の便を気にせずに住み替え先を選べます。
郊外なら同じ予算で、面積の広い住宅に住めます。都心部では叶わなかった、広い庭つきの戸建も夢ではありません。緑豊かな郊外で、老後生活をのんびり過ごせます。
マンションへ住み替える
一戸建てからマンションへの住み替えを検討するシニアは多いでしょう。
国土交通省の「令和2年度住宅市場動向調査」によると、初めて住宅を購入する人のうち60代が占める割合は、分譲マンションの場合約30%で2番目に多く、中古マンションでは31%で1番多いという結果が出ています。また、2回目以降の住宅取得となる人は、中古マンションの場合約42%が60代以上です。60代以上でマンションを購入する人が多いことがわかります。
マンションのメリットは、住居部分がワンフロアのため段差の心配がないこと、オートロックなど防犯上安心なこと、外構や庭の手入れなどメンテナンスの手間がかからないことがあります。いままでの住まいより部屋数が少なければ、家具や余分なものを処分できてコンパクトな生活を送れます。
ただし、一戸建てからマンションへ住み替えると、隣家や上下階の生活音が気になる人もいるでしょう。ペット不可物件のためペットが飼えなかったり、上層階なため庭がなかったりして、不便さを感じる場合もあります。
賃貸住宅へ住み替える
いま住んでいる住宅を売却して、賃貸住宅へ住み替える選択肢があります。
仮に住宅を購入した場合、想定より利便性がよくなかったり近隣とトラブルがあったりしても、すぐに転居できません。高齢の場合は、友人がいなかったり景色が変わったりして、新しい環境になじめないケースも多いです。賃貸住宅ならば気軽に転居できるため、失敗しても引っ越せばいいという気楽さがあります。
ただし、高齢の場合、賃貸住宅のオーナーや保証会社から入居の承認が得られず借りられなかったり、途中で退去を求められたりするケースもあるため、次の転居を含めたライフプランを立てる必要があります。終の棲家とするには選びにくい選択肢でしょう。
いまの住宅を建て替えまたはリフォームする
老後に希望するライフスタイルに合わせて、いまの住宅を建て替えたりリフォームしたりする選択肢もあります。バリアフリーにしたり、水回りを広くして使いやすくしたり、使わなくなった部屋をクローゼットにしたり、さまざまな間取り変更が考えられます。
新築のように新しい家で老後生活をスタートできるため、新鮮な気持ちになれるでしょう。住み慣れた環境から離れずにストレスなく生活できるのもメリットです。
リフォームは新たに住宅を購入するより費用も抑えられます。先ほども取り上げた「令和2年度住宅市場動向調査」によると、中古マンションの平均購入資金は2,263万円、リフォーム資金の平均は181万円でした。出費を抑えて老後資金を確保できるため、老後に収入が減っても安心です。
後悔しない、住み替え先を選ぶポイント
60代で住み替え先を選ぶときには、次のようなことに注意が必要です。
- 高齢者が住みやすい地域
- 暮らしやすい間取りや設備
- 助けてもらえる施設や家族・知人がいる環境
- 新居の資産価値
- セキュリティが充実
- 無理のない資金計画
住み替え先を選ぶときは、これらのポイントを参考にして、後悔することがないようにしましょう。
高齢者が住みやすい地域
60代からの住み替えは、不便さやストレスがないように、高齢者の住みやすい地域を選ぶとよいでしょう。
買い物や役所などの公共施設が近いと生活の利便性がよく、病院が近いと万が一のときに安心です。公共交通機関が充実していれば、自動車運転免許を返納したあとも電車やバスで移動しやすく、楽に外出できます。
若いころは気にならなかった坂道や階段も、高齢になるとつらくなり外出が億劫になるため、できる限り平坦な立地を選ぶこともポイントです。
暮らしやすい間取りや設備
高齢者が暮らしやすい間取りや設備もポイントです。床の段差をなくしてバリアフリーにしたり、車椅子が通りやすいように廊下やトイレを広くしたりすると、老後も転倒やケガを心配することなく安全に生活できます。
引き戸などドアが開けやすいと、高齢になって力が足りなくても楽に開閉できてストレスを減らせます。
ヒートショックを防ぐため、浴室や洗面室の寒暖差をなくす設備もあるとよいでしょう。NPO法人「老いの工学研究所」が2021年に行った「高齢者の住まいの悩みに関する調査」では、65歳以上で住まいに悩む人の約3割が、温度管理が難しいと回答しています。近年は高齢者が室内で熱中症になるケースが増えています。快適な室温を保つ設備は、住まい選びの重要なポイントになります。
助けてもらえる施設や家族・知人がいる環境
60歳からの住み替えでは、急な病気やケガに対応できる環境を整えることも重要です。
子ども世帯と同居したり近くに住んだりすれば、いざというときに助けてもらえる心強さがあり、安心して老後を迎えられます。子ども世帯が近隣にいなくても、気心の知れた友人や知人がいれば、何かあったときに頼れるでしょう。
介護施設や病院があれば、急に体調に変化があってもあわてることなく対応できます。
新居の資産価値や利便性
住宅を購入するのであれば、資産価値のある物件を選びましょう。
資産価値があれば、相続した子どもが売却するときに、高額売却を期待できます。売却せずに賃貸住宅として貸し出すときも、賃借人を見つけやすく、魅力的な投資物件となるでしょう。利便性がよければ、子どもが自分で利用することも考えられます。
資産として上手に活用できるように、資産価値や利便性をしっかりと判断して購入することが大切です。
セキュリティが充実
高齢者が住むうえで、防犯を重視する人は少なくありません。NPO法人「老いの工学研究所」が2021年に行った「高齢者の住まいの悩みに関する調査」では、65歳以上の住まいの悩みで1番多かったのが防犯面で、回答者の約32%が心配だと回答しました。
マンションに住み替えるなら、オートロックのある物件が安心です。ほかにも、管理人が常駐していたり管理会社の防犯システムが整っていたりすれば、親も子も安心して住めるでしょう。
無理のない資金計画
住み替え先の購入にあたって、住宅ローンの利用を検討している場合は、借入金額と返済期間に注意しましょう。
一般的に住宅ローンの年齢制限は、申込時に満65~70歳未満、完済時に満80歳未満という金融機関が一般的です。若い世代より借入期間が短くなるため、借り入れできる金額が少なくなります。
また、60代で住宅ローンを組むと、定年などで収入が減ったあともローンの返済を続けることになります。生活費に困らないように、返済額を検討しましょう。自己資金の金額と毎月の返済額、返済期間のバランスを考えて、無理なく購入できる住宅を選ぶことが重要です。
60代の住み替えを成功させる資金計画
老後資金の確保や住宅ローンの制限など、60代が住み替えるには次のような注意すべきポイントがあります。
- 退職金や貯蓄はできるだけ残す
- 所有不動産を売却して住み替え資金にする
- 収入と支出を把握する
- 所有不動産を賃貸に出して収入源とする
4つのポイントをしっかりと理解して、住み替えを成功させましょう。
退職金や貯蓄はできるだけ残す
退職金や貯蓄を住宅購入にあてる場合、全額を使うことは避けましょう。万が一のため、手元に資金を残しておく必要があります。
定年後は再就職や年金が主な収入源のため、年収が減って新たに貯金を貯めることは難しくなります。急な入院などまとまった支出に備えて、できる限り手もとに資金を残しておくことが大切です。
所有不動産を売却して住み替え資金にする
所有している住宅を売却すれば、それを購入資金にあてられます。手もとの預貯金を減らさずに購入できるため、老後資金を心配せずに住み替えができます。
家の購入には、購入代金以外にも、不動産会社に支払う仲介手数料や税金、引っ越し代などの費用がかかります。住み替えにかかる費用を売却代金でまかなうために、できるだけ高い金額で売却しましょう。
収入と支出を把握する
高齢者の住み替えで失敗するケースでは、住み替え後の収入と支出を把握できていないケースが多く見られます。
定年後も働いたとしても、現役のころよりは年収が減ってしまいます。収入を把握せずに住宅ローンを組んでしまったり、手もとの貯金を住宅の購入費用にあててしまったりすると、のちのち老後資金に困るおそれがあります。
収入と支出をしっかり管理して、貯金を必要以上に減らさない工夫が大切です。
所有不動産を賃貸に出して収入源とする
所有している住宅を住み替え後も売却せず、賃貸不動産として収入源にすることも可能です。退職後に収入が減っても、毎月定期的に賃貸収入があれば、生活費や住宅ローンの返済にあてられます。売却しなくても住み替え資金を用意できる場合は、売却しない選択肢も検討しましょう。
ただし、不動産を賃貸にすると、固定資産税や管理委託料、賃貸中の修繕費用などのコストがかかるため、しっかりと収支を計算する必要があります。
高田 一洋(たかだ かずひろ)
一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
【保有資格】宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産仲介営美・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師等を務める。豊富な不動産知識に加え20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。