住み替えで、いま住んでいる家を売却して、新しい家を購入するとき、注意することがいくつもあります。家が売れない、思ったほど高く売れない、新居が見つからないなど、住み替えではさまざまなトラブルが起こります。売却代金でいまの住宅ローンを完済できないこともあるでしょう。
住み替えるときに、あらかじめ把握しておきたい注意点やトラブルなどを紹介します。
住み替えは「買い先行」「売り先行」どちらがよい?
住み替えは新居と旧宅の売買を同じタイミングで行って住み替えるのが理想ですが、そうそうぴったりとタイミングを合わせることはできません。基本的に売却と購入のタイミングはズレます。
住み替えのともなう住宅の売買には、ふたつの種類があります。
- 買い先行:新居を購入してから旧宅を売却する
- 売り先行:旧宅を売却してから新居を購入する
買い先行と売り先行について、詳しく解説します。
買い先行|買ってから売る
買い先行とは、新居を先に購入し、いま住んでいる住居をあとから売却することです。買い先行のメリットとデメリットは、以下のとおりです。
買い先行のメリット
買い先行には、以下のようなメリットがあります。
- 購入する住宅をじっくりと選べる
- 仮住まいを用意する必要がない
- 売却の内見に立ち会わなくてもよい
- 新居に合う家具や家電を選んで持って行ける
買い先行は、売却時期を気にせずに物件選びができます。購入する住宅をじっくりと検討する時間があるため、焦って購入して後悔するリスクを避けられます。また、いまの住まいから新居へ直接引っ越せるため、仮住まいを用意する必要もありません。
新居に引っ越したあといままでの住居は空き家になるため、購入希望者の内見に立ち会わなくても室内を見てもらえます。内見日を購入希望者の予定に合わせられるので、売却活動をスムーズに進められるでしょう。
買い先行のデメリット
買い先行のデメリットは以下のようなものです。
- 住宅を購入する費用が必要
- 二重ローンになる可能性がある
- 住宅ローンの審査が厳しい
- 売却が進まないと経済的に困難するおそれがある
- 売却価格が期待を下回るおそれがある
- 売却に焦ってしまう
自宅を売却する前に新居を購入するため、売却代金を購入資金に充てられません。そのため、購入資金を自分で用意したり、住宅ローンを組んだりする必要が生じます。いま住んでいる家の住宅ローンが残っていると、二重ローンになってしまうこともあるでしょう。借入額が高額になることから、金融機関の審査も厳しくなります。
また、家がいくらで売れるかわからないため、購入資金にあてられる金額を確定できません。期待していたよりも、はるかに安く売れて足りない、ということもあり得ます。
買い先行は、預貯金に余裕がある、または二重ローンでも返済できる収入があるなど、経済的な余裕が必要です。
売り先行|売ってから買う
売り先行とは、いま住んでいる住居を先に売却してから、住み替え先の新居を購入することです。売り先行のメリットとデメリットは以下のとおりです。
売り先行のメリット
売り先行には、以下のようなメリットがあります。
- 売却代金を新居の購入資金にできる
- 住み替え先の購入金額の目安をつけやすい
- 二重ローンを防げる
- 新居の住宅ローンの審査が通りやすい
- 高く購入する買主があらわれるまで待てる
先に自宅を売却するため、売却代金を購入資金にあてられます。売却代金がわかっているため、新居を購入する価格の目安がわかります。
住宅ローンの残債を完済できるため、二重ローンを避けられるのもポイントです。完成した状態なので、新しく借りる住宅ローンの審査もとおりやすいでしょう。
また、購入時期を気にせずじっくりと売却活動を行えるため、価格交渉に応じる必要がなく、高値売却できるまで待つこともできます。
売り先行のデメリット
売り先行には、以下のようなデメリットがあります。
- 住み替え先が決まるまで仮住まいが必要になる
- 必要な家具や家電を分けられない
- 購入物件をじっくり選ぶ余裕がない
新居の購入前にいま住んでいる住宅を売るため、一時的に住む場所がなくなります。そのため、仮住まいが必要になり、賃料や引っ越し費用といった出費があります。新居をなかなか見つけられないと、それだけ仮住まいの費用がかさむおそれがあります。
また、新居が決まらないと持って行ける家具や家電を選ぶこともできません。仮住まいに持って行くか、一時的に倉庫へ収納することになるでしょう。
そのため、できる限り早く家を購入したいという気持ちから、じっくりと物件を選ぶ余裕がなく、希望と違う住宅を購入してしまうおそれもあります。
売り先行のほうが負担は少ない
仮住まいの用意などデメリットもありますが、売り先行のほうが経済的な負担は少ないでしょう。いま住んでいる家の住宅ローンが残っていても売却代金で完済するため、購入時に二重ローンになるリスクを避けられるためです。
また、手もとに売却代金を持って購入物件を探せるため、購入資金の目安を立てやすく、無理のない資金計画を立てられるでしょう。
住宅ローンが残っている住み替えの注意点
住宅ローンの残債がある場合、売却までに全額返済しなければなりません。住宅についている抵当権を抹消する必要があるためです。
住宅ローンが残っている家から住み替える場合には、以下のような注意点を押さえておく必要があります。
- 自宅の売却で住宅ローンを完済する
- 完済できない場合は差額を自己資金で支払う
- 住み替えローンは利率が高い
- 購入と売却の決済を同時に行う
- 買い換え特約をつける
- 買取保証を利用する
以下に、それぞれを詳しく解説します。
自宅の売却で住宅ローンを完済する
住み替えで住宅ローンが残っている場合は、売却した金額で住宅ローンの残債を完済します。そのため、販売価格は残債を完済できる金額以上に設定する必要があります。
また、新居の購入にともなう諸費用もまかなうには、さらに高額で売却しなければなりません。住宅ローンを確実に完済できるように、必要な金額をしっかり計算して、販売価格を決めましょう。
売却額で完済できない場合は差額を自己資金で支払う
売却額がローン残債より低い場合は、差額を自己資金で補わなければなりません。購入の自己資金と残債の差額分の両方を用意するため、まとまった資金が必要になります。いま住んでいる住宅の査定価格が想定より低い場合は、差額分の自己資金が用意できるかを確認しましょう。
自己資金での用意が難しい場合は、住み替えローンで差額を支払う方法もあります。しかし、経済的な負担になるため、それでも住み替えたいのかを含めて資金計画を検討することが大切です。
住み替えローンは利率が高い
売却額がローン残債より低い場合、差額を住み替えローンで補う方法があります。住み替えローンとは、残債の差額分と購入資金の合計額を借りる住宅ローンのことです。売却と購入を同時に行う場合に利用できます。
借入額が購入価格より高くなるうえに、金利が高い傾向があるため、毎月の返済額が高くなります。また、万が一返済が滞った場合、残債が高額のため経済的に破綻するおそれがあります。
収入や預貯金とのバランスを考えて、しっかりと資金計画を立てる必要があります。
購入と売却の決済を同時に行う
いま住んでいる家の住宅ローンが残っている場合、できる限り売却と購入を同時に行うようにスケジュールを調整しましょう。買い先行にすると二重ローンになる可能性があり、売り先行にすると売却価格が残債を下回った場合に差額を預貯金やつなぎローンで補う必要があるからです。
決済を同時に行えば、仮に売却価格が残債を下回っても住み替えローンで購入資金と一緒に借入れできます。手続きを同時に行うため、司法書士や金融機関に支払う諸費用を抑えられるのもメリットです。仮住まいが不要なので、引っ越し代も節約できます。
買い換え特約をつける
住み替え先の不動産売買契約を締結するときに、買い換え特約をつけると安心です。買い換え特約とは、購入物件の決済までに売却が決まらない場合は、購入物件の契約を解除できるという特約です。
いま住んでいる家の売却代金を住宅ローンの完済や新居の購入資金にする場合、売却できないと資金を用意できません。預貯金やローンで購入資金を工面したとしても、売却が決まらない限り経済的な負担になります。
買い換え特約を付ければリスクを減らせるため、安心して購入物件の契約を結べます。
買取保証を利用する
売却が思うように進まない場合、仲介している不動産会社に買い取ってもらうことを買取保証といいます。売却代金を購入資金にする場合や住宅ローンが残っている場合でも、買い取ってもらえる保証があれば、安心して新居購入を検討できます。
ただし、買取の場合は売却価格が相場価格より安くなるため、必要な資金を確保できる金額で買い取ってもらえるかを確認することが重要です。
住み替えで起こりがちなトラブルに注意
住み替えは、売却と購入のふたつの売買契約が関わるため、手続きや流れが複雑になります。トラブルを避けるために、しっかりと次の注意点を把握することが重要です。
- 引き渡しまでに新居が決まらない
- 購入決済までに売却が決まらない
- 決済日までに引越しできない
- 諸費用があることを忘れてしまう
住み替えで起こりがちなトラブルの内容と対応方法を前もって理解しておくと、失敗しないように計画を立て、スムーズに住み替えを進められるでしょう。
引き渡しまでに新居が決まらない
購入と売却を同時に進める予定で売却の契約をしたのに、新居が決まらないケースがあります。その場合は売り先行となり、仮住まいに引っ越す必要があるため、賃料や引っ越し代などの費用が発生します。
新居が決まらないケースを想定して、あらかじめ資金に余裕を持たせておくと、焦って購入して失敗することを防げます。購入物件の希望条件に優先順位をつけるのも、早期に購入するには必要です。
購入決済までに売却が決まらない
購入物件の決済までに売却が決まらないケースがあります。売却代金を購入資金にあてる計画だった場合は購入資金が不足するため、経済的リスクを負うことになるでしょう。
買い先行になるため、二重ローンになることもあります。買い換え特約をつけておくと、売却が決まらない場合に購入の売買契約を解除できるため、万が一のリスクを避けられます。
決済日までに引越しできない
通常は売却の決済日までに荷物をすべて運び出して、引っ越しを完了させます。しかし、住み替えの場合は、購入物件で新規に住宅ローンを組むなどの事情により、決済日までに引っ越せないケースがあります。
そういった場合には、売却の決済日から数日間の引き渡し猶予の特約をつけることが可能です。猶予期間は1週間程度のケースが多く、長くても2週間です。猶予が必要だと売買契約までにはっきりしていれば、不動産売買契約書に特約として付加します。引き渡し猶予の特約は住宅ローンの審査に影響する可能性もあるため、別途覚書としてつけることも可能です。ただし、買主は代金を支払っても引き渡しを受けられず、一方的にリスクを負うことになるため、了承を得られない場合も多いです。
諸費用があることを忘れてしまう
売却も購入も、代金以外に諸費用がかかります。諸費用には以下のような費用があります。
売却時 | 購入時 |
---|---|
諸費用は手もとの預貯金や売却代金をあてるほか、住宅ローンに含めることも可能です。合計するとまとまった金額になるため、忘れてしまうと資金計画を大幅に変更しなければならなくなります。
あらかじめ不動産会社に相談して、諸費用がいくらになるのか目安を知っておくことが重要です。
高田 一洋(たかだ かずひろ)
一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
【保有資格】宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産仲介営美・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師等を務める。豊富な不動産知識に加え20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。