今回は、借地上に建てられた建物を売却する場合の注意点を解説します。
借地上の建物とは
借地上の建物とは、土地を借りて建てられた建物を指します。この場合、土地と建物の所有者は異なります。したがって、借地上の建物を売却する場合、売却するのは建物のみであり、土地の所有権は移転しません。
※土地を第三者から借り、その土地に建物を建てる権利を「借地権」といいます。
借地上の建物を売却する場合
借地上の建物を売却する際には、建物とともに土地の賃借権(借地権)も譲渡しなければなりません。賃借権の譲渡とは、土地を借りている権利を新しい借主に移すことです。賃借権を譲渡しなければ、建物を取得しても土地を利用する権利がなくなり、不法占拠となる恐れがあります。
民法第612条第1項では、賃借権の譲渡には貸主(地主)の承諾が必要だと定められています。借地上の建物を譲渡する際には、地主の承諾なしに行うと、賃借権の無断譲渡となり、契約が解除される可能性があるため、注意が必要です。
地主との交渉
借地上の建物の譲渡を行うと、土地の賃借権の譲渡もあわせて行ったとみなされるため、譲渡を行う前に必ず地主の承諾を取る必要があります。
まずは、地主に賃借権(借地権)の譲渡の承諾を交渉します。
借主の変更は、地主にとって、新しい借主から地代を安心して回収していけるかという懸念やリスクを伴うため、承諾を得られないこともあります。
承諾を得られない場合、承諾料を提示して交渉することもあります。
承諾料の相場は借地権価格の約10%といわれていますが、承諾料に関わらず、地主が承諾するかは自由です。
特に旧借地権の場合、半永久的に土地が戻ってこないことを危惧している地主も多いため、簡単に借地権の譲渡に応じる地主は少ないと考えられます。
もし交渉で承諾が得られない場合は、裁判所に申し立てを行い、地主の承諾に代わる許可を得る必要があります。
裁判所への代諾許可申し立て
●代諾許可申し立て
地主が賃借権の譲渡を承諾しない場合、裁判所に申し立てを行い、承諾に代わる許可(代諾許可)を得ることができます。これは、借地借家法第19条に基づいています。
☆参考法令 借地借家法19条1項(「e-GOV 借地借家法」より)
借地権者(借主)が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者(貸主)に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
この手続きは、借地上の建物を譲渡する前(所有権移転登記前)に行う必要があります。
裁判所における代諾許可を下すにあたっては、借主の変更が、地主にとって不利にならないことが前提となります。
地主にとって不利になるケースとは、下記のような場合です。
1.資力に不安がある
新たな借主の資力に問題がある場合、毎月の地代の支払いの不確実性が懸念されるため、地主にとっては不利になると判断される可能性があります。
2.新たな借主と地主の関係
地主と新たな借主の間に、過去にトラブルがあったり、現にトラブルが生じているなどの場合は、地主にとって借主の変更が不利になると判断される可能性があります。
新しい借主についても、裁判所が代諾許可を判断する基準となるため、借地上の建物の購入者が決定した際には、建物の譲渡前に申し立てを行う必要があります。また、裁判所は代諾許可を下す際に、賃借権の残存期間や借地に関するこれまでの経緯、賃借権の譲渡や転貸を必要とする理由など、すべての事情を考慮することになります(借地借家法第19条第2項)。
●譲渡承諾料の支払い
借地借家法19条1項後段では、「裁判所は代諾許可をするにあたり、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。」と定められています。
裁判所が下す代諾許可は、賃借人の申し立てに基づき一方的に賃借権の譲渡を認めるものであり、地主にとっては不利益となります。
そのため、裁判所は、当事者の利益の衡平を図る必要があるときは、借地条件の変更を命じたうえで、借地権の譲渡承諾料の支払いを賃借人に課すことができます。
また、譲渡承諾料の支払いが条件となり代諾許可が下りた場合、許可後6か月以内に賃借人が譲渡承諾料を支払い、建物の譲渡が行われないと、代諾許可の効力が失われるため、注意が必要です。
●地主の介入権の行使
賃借人が裁判所に代諾許可の申し立てを行った場合、地主は、裁判所が定めた期間内であれば、地主自らに建物を譲渡、および土地の賃借権の譲渡をするよう申し立てをすることができます。
この地主による申し立てを「介入権の行使」と言います。
介入権が行使されると、裁判所は相当の対価と転貸条件を定めて、地主への建物の譲渡と転貸の命じることができます。
この際、地主が支払う相当な対価は、下記のように計算されます。
「相当な対価=建物の譲渡代金+土地賃借権の譲渡代金-賃借権譲渡承諾料」
☆参考法令 借地借家法19条3項(「e-GOV 借地借家法」より)
代諾許可の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、借地借家法19条1項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。
まとめ
以上のように、借地上の建物を売却する際には「地主の承諾」が不可欠です。地主の承諾が得られないことが多いため、その場合は事前に裁判所への申し立てが必要になります。
借地上の建物の売却を検討されている場合は、まずは地主との交渉を必ず行っておきましょう。
交渉がうまく進まない場合は、弁護士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。
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