近年、東京都においても空き家の増加が社会問題として注目を集めています。高齢化や人口減少の影響により、都市部でも空き家が目立つようになってきました。
本記事では東京都の空き家の現状から具体的な活用方法、さらには管理サービスの活用まで、空き家に関する総合的な情報を紹介します。
目次
東京都の空き家の現状
都市部における空き家の増加は、地域社会にさまざまな課題をもたらしています。まずは空き家の基本的な定義から、東京都の実態までを詳しく見ていきましょう。
空き家の定義と種類
住宅・土地統計調査における定義によると、空き家は「普段人が居住しておらず、一時的にも使用されていない住宅」を指します。
空き家は主に四つのカテゴリーに分類されます。
- 別荘などの二次的住宅:週末や休暇時に利用される住宅
- 賃貸用の住宅:賃貸を目的として空いている物件
- 売却用の住宅:販売を待っている状態の物件
- その他の住宅:相続放棄などの理由で利用されていない住宅
特に問題となっている空き家は、「その他の住宅」です。
東京都の空き家の実態
東京都の空き家の状況は、全国と比較すると特徴的な傾向を示しています。東京都全体の空き家率は約10%で、全国平均の13.6%と比べるとやや低い水準にあります。しかし、空き家総数は約81万戸にも上り、そのうち問題空き家と呼ばれる「その他の住宅」は約24万戸を占めています。
特に注目すべきは、東京都の空き家の分布パターンです。区部周辺部や多摩地域では、高齢化に伴う一戸建ての空き家増加が目立ちます。一方で、都心部ではマンションやアパートなどの集合住宅の空き室も増加傾向にあり、これは東京都特有の現象といえます。
空き家が地域にもたらす影響
空き家の存在は、地域社会に多岐にわたる影響を及ぼしています。防犯面では、不審者の侵入や放火のリスクが高まり、地域の治安を脅かす要因となっています。また、建物の老朽化による倒壊リスクや外壁材の剥落など、周辺住民の安全を脅かす物理的な危険も存在します。
衛生面では、手入れされていない空き家が害虫や野良猫の住みかとなり、周辺の生活環境を悪化させるケースも報告されています。さらに、経済的な影響として、空き家の存在により周辺の不動産価値が下がり、地域全体の資産価値の低下につながることも懸念されています。
東京都による空き家対策
空き家問題に対して、東京都はさまざまな施策を展開しています。行政による取り組みを詳しく見ていきましょう。
東京都の空き家施策実施方針
東京都は空き家問題への対策として、包括的な施策実施方針を策定しています。その中心となるのが「発生抑制」と「活用促進」の二つの柱です。
発生抑制では、所有者への適切な維持管理の啓発や、相続時における早期対応の支援に力を入れています。具体的には、セミナーの開催や相談窓口の設置、維持管理マニュアルの配布などを行っています。
活用促進においては、利活用可能な空き家の情報収集と、活用希望者とのマッチング支援を実施しています。特に注力されているのは、地域のニーズに合わせた活用方法の提案や、リノベーションに対する支援制度の充実です。
空き家等対策の推進に関する特別措置法
2015年に施行された空き家等対策の推進に関する特別措置法は、空き家問題に対する法的な枠組みを提供しています。この法律により、自治体は管理不全な空き家に対して立入調査や指導・助言を行う権限を持つようになりました。
特に重要なのは、周辺の生活環境に深刻な影響を及ぼす空き家を「特定空家等」として認定できる制度です。特定空家等に指定されると、所有者に対して修繕や撤去などの措置を命じることができ、従わない場合は所有者に変わって強制的に措置を行う「行政代執行」も可能となります。
区市町村の取り組み事例
東京都内の各区市町村では、それぞれの地域特性に応じた独自の空き家対策を展開しています。例えば、世田谷区では空き家等地域貢献活用制度を設け、空き家を地域の交流拠点として活用する取り組みを支援しています。
また、東京都府中市では空き家の発生を予防するため、相続登記の促進や空き家の適正管理に関する支援制度を充実させています。このように、各自治体がその地域の課題に即した対策を講じることで、きめ細かな空き家対策を実現しています。
空き家活用の具体的な方法
空き家の活用方法は物件の状態や立地条件、所有者の意向などによってさまざまな選択肢があります。ここでは、代表的な活用方法についてそれぞれの特徴を詳しく解説していきます。
リノベーションして賃貸活用する
空き家を収益物件として活用する方法として、リノベーション後の賃貸活用が注目されています。築年数が経過した物件でも、適切なリノベーションを行うことで、現代のニーズに合った魅力的な賃貸物件として生まれ変わらせることが可能です。
費用と収益シミュレーション
規模や内容にもよりますが、一般的な戸建て住宅のリノベーション費用は、平均して500~1,500万円程度が目安です。水回りの完全な改修やデザイン性の高い改装を行う場合は、さらに費用が上がることもあります。
収益面では、例えば築30年の戸建て住宅を月額8万円で賃貸できる物件にリノベーションした場合、年間で約96万円の家賃収入が見込めます。諸経費を差し引いた実質的な年間収益は60万円程度となり、1,000万円のリノベーション費用であれば、約17年で回収が可能となります。
成功事例の紹介
東京都内では、古い一戸建てを若い世代向けの居住空間として生まれ変わらせた事例が増えています。
例えば、杉並区では1970年代に建てられた木造住宅を、テレワークスペースを備えた現代的な賃貸住宅にリノベーションし、IT企業に勤める30代のカップルが入居するといった成功例があります。
売却・解体して活用する
リノベーションが適さない場合や、所有者が物件の維持を望まない場合は、売却や解体による活用も選択肢となります。この方法は特に建物の老朽化が進んでいる場合や、立地条件の良い物件で土地としての価値が高い場合に検討される傾向にあります。
売却のメリット・デメリット
売却のメリットとしては、まとまった資金を得られることや、維持管理の負担から解放されることが挙げられます。特に相続で取得した空き家の場合、売却による現金化は相続税の納付にも活用できます。
一方でデメリットとしては、不動産市場の状況によって希望価格での売却が難しい場合があることや、古い建物の場合は売却自体が困難になる可能性もあることが挙げられます。
解体後の土地活用方法
解体後の土地活用については、駐車場やコインパーキングとしての活用が一般的です。特に都心部では、月極駐車場としての需要が高く、安定した収入が見込めます。
また、菜園や農園として貸し出す方法も、近年注目を集めています。
その他の活用方法
空き家の活用方法は、従来の居住用途に限定されません。地域のニーズや社会的な課題に応じて、さまざまな用途への転換が可能です。
シェアハウス・シェアオフィス
広めの一戸建て空き家は、シェアハウスやシェアオフィスへの転換が有効です。特に都内の学生や若手社会人向けのシェアハウス需要は高く、適切な改修を行えば安定した収益が期待できます。
また、コロナ禍以降、郊外のシェアオフィスニーズも高まっており、新たなビジネスチャンスも広がっています。
地域コミュニティ施設への転換
空き家を地域の交流拠点として活用する取り組みも増えています。
子育て支援施設、高齢者向けのデイサービス、地域の集会所など、地域住民のニーズに応じた施設への転換が可能です。
この場合、行政からの補助金や支援制度を活用できることも多く、運営面でのサポートを受けられる可能性があります。
空き家バンクの活用
空き家バンクは、自治体が運営する空き家の売買・賃貸情報を集約したシステムです。所有者は物件を登録することで、広く活用希望者とマッチングする機会を得られます。
東京都内でも多くの自治体が空き家バンクを運営しており、専門家による相談サービスも併設されていることが多いです。
活用法が見つからない空き家は空き家管理サービス活用がおすすめ
すぐに活用方法が決まらない場合でも、空き家を放置することはさまざまなリスクを伴います。そのような場合は、専門の空き家管理サービスを利用することで、建物の価値を維持しながら将来の活用に備えられます。
日常的な管理
空き家の日常的な管理は建物の劣化を防ぎ、周辺環境への悪影響を防止するうえで極めて重要です。専門の管理サービスでは定期的な見回りや換気、通水、庭木の手入れなどを一括で請け負います。
特に重要なのが定期的な換気と通水です。空気の滞留は建物内部のカビや腐食の原因となり、水道管の長期未使用は配管の劣化を招く可能性があります。プロの管理サービスでは、これらの作業を計画的に実施し、建物の状態を良好に保ちます。
また、郵便物の確認や除草作業なども重要な管理項目です。放置された郵便物や雑草の繁茂は、空き家であることを外部に知らせる目印となり、防犯上の懸念材料となります。管理サービスによる定期的なケアは、こうしたリスクの軽減にも効果的です。
トラブル対策
空き家におけるトラブルは、予期せぬタイミングで発生することが多く、所有者が遠方に住んでいる場合は特に対応が困難です。管理サービスでは、緊急時の対応体制を整えており、災害や防犯上の問題が発生した際にも迅速な対応が可能です。
例えば、台風や大雨による被害、不審者の侵入、設備の故障などの緊急事態が発生した場合、管理会社が現地確認から必要な措置まで一連の対応を行います。
また、近隣住民からの苦情や問い合わせにも対応し、所有者に代わってコミュニケーションを取ることで、近隣住民との良好な関係を維持できます。
費用管理のポイント
空き家の管理費用は、サービスの内容や物件の規模によって異なりますが、一般的な戸建て住宅の場合、月額1~3万円程度が目安となります。これには、定期的な見回りや基本的な維持管理作業が含まれます。
費用対効果を考える際は、放置による建物の劣化や資産価値の低下、さらには特定空家等に指定された場合の是正措置費用などのリスクと比較することが重要です。適切な管理を行うことで、将来的な売却や活用の際に有利な条件を確保できます。
また、管理サービスを利用する際は、以下の点に注意を払うことをおすすめします。
- サービス内容の詳細な確認(見回りの頻度、実施項目など)
- 緊急時の対応範囲と追加費用の有無
- 保険の適用範囲
- 報告方法と頻度
- 契約期間と解約条件
将来的な活用を見据えた場合、建物の状態を良好に保つことは重要です。空き家管理サービスは、その手段として有効な選択肢となります。特に、遠方に住んでいる所有者や、多忙で自身での管理が難しい場合には、専門サービスの活用を積極的に検討することをおすすめします。
以上、東京都における空き家の現状から具体的な活用方法、さらには管理サービスの活用まで、総合的に解説してきました。空き家問題は所有者個人の課題であると同時に、地域社会全体の課題でもあります。適切な対策と活用を通じて、空き家を地域の資産として生かしていくことが求められています。
高田 一洋(たかだ かずひろ)
一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
【保有資格】宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産仲介営美・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師等を務める。豊富な不動産知識に加え20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。