近年、分譲マンションを賃貸として活用する「分譲賃貸」への関心が高まっています。分譲賃貸はオーナーにとって資産運用の一手段で、入居者にとっては高品質な居住空間を得る機会です。その一方で、分譲賃貸には一般的な賃貸物件とは異なる独自のルールなどがあり、特有のトラブルがあるといわれます。
分譲賃貸ならではのメリットとデメリット、起こりやすいトラブル事例、対処法をわかりやすくまとめました。トラブルを未然に防ぐヒントとしてご活用ください。
目次
分譲賃貸のメリット・デメリット
分譲賃貸には、普通の賃貸と異なる点があることに注意が必要です。実際、賃貸物件との違いから、住む人にとって思わぬメリットや、逆に意外な落とし穴が潜んでいることがあります。そのため、分譲賃貸として貸す、借りるときは、特徴を十分に理解することが大切です。入居者とオーナー双方の視点から、メリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。
メリット
分譲賃貸は一般的な賃貸住宅にはない魅力があり、人気の高い物件も少なくありません。分譲賃貸にはどのようなメリットがあるのか解説します。
建物の品質と設備の充実度
分譲マンションは資産価値を維持するため、遮音性や断熱性など建物の性能が重視されることが一般的です。加えて、システムキッチンや浴室乾燥機、床暖房など、一般的な賃貸では珍しい設備があることも多く、入居者が快適に生活を送ることが可能です。また、耐震性能も高く設定されており、安心して暮らせるでしょう。
管理体制とセキュリティ
多くの分譲マンションでは、管理組合や管理会社が建物の清掃・点検、セキュリティ対策を随時実施しています。オートロックや監視カメラなどの防犯設備が整っていることも多く、単身者や女性、ファミリー層にとって安心できる環境だといえるでしょう。
居住者のマナーの良さ
区分所有者が同じ建物内に居住しているため、資産価値の維持を意識したマナー向上の取り組みを行っていることがあります。そのため、共用部の使用ルールが守られ、ゴミ出しのマナーが良好など、平穏で暮らしやすい環境が望めるかもしれません。
デメリット
分譲賃貸にはメリットが多いものの、さまざまな欠点もあります。入居を検討している人は、分譲賃貸のデメリットも把握しておきましょう。
比較的高額な家賃
分譲賃貸は充実した設備や優れた立地が家賃に反映され、一般的な賃貸物件よりも割高に感じられることが少なくありません。場合によっては管理費や修繕積立金の一部を負担するケースもあり、予算面で負担が増えることがあります。
物件数の少なさ
分譲賃貸は一般的な賃貸住宅ほど数が多くないため、条件に合った物件を見つけるのに時間がかかることがあります。また、空室があってもオーナーが貸し出さないこともあり、分譲賃貸にこだわると選択肢が限られてしまうでしょう。
二重の規約がある可能性がある
賃貸借契約とマンション管理規約の両方を守る必要があるため、ルールが複雑化しやすいといわれています。たとえば、ペットや楽器演奏、リフォームなどに関する制約が増え、想定していた生活スタイルを実現しにくいと感じるかもしれません。
分譲賃貸で起こりやすいトラブルと原因
分譲賃貸では一般的な賃貸住宅とは異なるトラブルが起こることがあり、借りるときはあらかじめ注意しておく必要があります。どのようなトラブルが起こりやすいのか、なぜそのようなトラブルが起こるのか解説します。
設備関連のトラブル
分譲賃貸物件では、設備関連のトラブルが発生したときに修理対応が長引くことがあります。共用部分と専有部分の境界があいまいな設備では、誰が対応すべきか明確にできず、その結果、修理が遅れる原因になるのです。
また、費用負担の問題が起こることもあります。経年劣化と使用頻度による故障の違いは判断が難しく、オーナーと入居者のどちらが費用を負担するべきか対立してしまうのです。たとえば、エアコンや給湯器など、日常生活に欠かせない設備が不具合を起こした場合、修理費用の分担をめぐる交渉が長引き、その間、生活への支障が出ることがあります。
このように、分譲賃貸における設備トラブルは、費用と責任の所在をめぐって複雑化する傾向があり、その点を十分に理解しておくことが大切です。
規約関連のトラブル
分譲賃貸ではマンションの管理規約と賃貸借契約というふたつの規約があり、それがトラブルを起こす要因になることがあります。たとえば、賃貸借契約で許可されたことが管理規約で禁止されている場合、入居者は想定していた生活スタイルを実現できなくなってしまうのです。そのため、楽器の演奏や営業利用、ペットの飼育などは、本当に可能なのかを確認することが必要です。
また、駐車場の利用も区分所有者を優先する規約により、賃借人が希望しても利用できないことがあります。管理組合の判断で、駐車場の使用料や規則が改定されることもあります。こうした問題を避けるためには、事前に双方の規約をよく確認し、内容を十分理解しておくことが大切です。
契約関連のトラブル
契約に関するトラブルは、入居から退去まで、さまざまな段階で発生するおそれがあります。特に定期借家契約の場合、契約期間が満了すると自動的に終了する点を十分理解していないと、想定外の退去要求があってトラブルにつながるでしょう。
また、分譲賃貸では原状回復の基準が厳しく、高級な設備や内装材が使われていると、退去時に予想以上の費用を請求されることがあります。こうした問題を防ぐには、契約前に条件をよく確認し、契約内容を明確に把握しておくことが大切です。
オーナー変更時のトラブル
分譲賃貸では、契約期間中にオーナーが変わることがあり、このときにさまざまなトラブルが発生することがあります。新たなオーナーは家賃や更新料などの条件見直しを求めることがあり、入居者にとって思わぬ負担が生じるかもしれません。
また、オーナーの交代によって管理会社や担当窓口が変わり、対応や連絡方法が変わることも考えられます。新オーナーや新たな担当者とコミュニケーションを取り、どのような変化があるのかよく確認することが大切です。
トラブルを防ぐための対策
分譲賃貸でのトラブルを防ぐには、入居前からの準備と確認が重要です。ここでは、具体的な対策を詳しく解説します。
契約前の確認事項
入居を決める前には、管理会社の有無とその役割、マンション管理規約と賃貸契約の整合性などを十分に確認しましょう。管理会社は業務範囲や緊急時対応、24時間サポートの有無、休日の連絡先などを事前に把握しておくと安心です。
ペット飼育や楽器演奏、来客制限など生活に深く関わるルールは、マンション管理規約と賃貸契約が食い違っていないかを念入りにチェックしてください。これらの確認を怠ると、入居後に想定外のトラブルが生じることがあります。
また、分譲賃貸では高価な設備や内装が使用されていることが多いため、事故や損傷時に十分な補償を受けられる保険へ加入しましょう。
入居中の注意点
入居中は管理組合との円滑なコミュニケーションと、共用設備のルール遵守が重要です。管理組合の通知や掲示を見落とさず、疑問点があればオーナーや管理会社に尋ねることで、想定外の問題を防ぎやすくなります。
また、エレベーターを用いた引っ越しや駐輪場の利用、ゴミ出しなど、分譲賃貸特有の厳格な規則にも注意しましょう。一般的な賃貸物件ではあまり意識しないような細かな決まりもあるため、日常生活での小さな確認や配慮が、トラブル回避につながります。
更新時の注意点
契約の更新時に更新料や契約条件が見直されることがあるため、事前の確認が欠かせません。分譲賃貸の更新料は一般の賃貸より高めになることがあり、1~2カ月分の賃料が相場といわれています。
また、家賃や共益費、管理体制の変更などが提示されることもあり、特に修繕計画に伴う費用増加には注意が必要です。これらを踏まえ、更新時には十分な説明を受け、納得できる条件で合意できるよう準備を整えておきましょう。
オーナーが注意すべき分譲賃貸運営のポイント
分譲賃貸物件のオーナーは、一般の賃貸物件以上に慎重な運営が求められます。ここでは、オーナーが特に注意を払うべきポイントを解説します。
入居者選定の重要ポイント
入居者選定は物件の価値維持や、安定経営につながる重要なプロセスです。分譲賃貸では一般の賃貸物件以上に、厳格な審査基準を設けることが望まれます。収入基準や職業、入居人数などは、あらかじめ明確に決めておきましょう。家賃の支払い能力は、月収の30%が目安といわれています。
ほかの住民とトラブルが起こらないよう、配慮することも大切です。たとえば、深夜勤務や来客の多い職業の人は、慎重に判断する必要があるでしょう。高額な家賃に対応できる保証会社を選定し、滞納時の対応や保証範囲を事前に確認しておくと、将来的なリスクを軽減できます。
トラブル防止のための契約書作成
契約書の作成では、将来のトラブル防止を念頭に置き、特約条項や原状回復の条件、解約条件を明確化するようにしましょう。分譲マンションの管理規約に沿った特約条項を設定し、入居者の権利を不当に制限しないよう配慮することが重要です。
また、原状回復は高級仕様の設備や内装材について、通常損耗と経年劣化を区別し、費用負担の基準をはっきり示すことが望まれます。さらに、解約に関する予告期間や違約金は法律に従うことで、双方が納得できる契約内容になります。
管理会社の選び方
管理会社の選定は、分譲賃貸経営の成否を左右する重要なポイントです。まず、物件の規模や特性に合わせ、入居者募集や日常管理、緊急トラブル対応など、どの業務を委託するかを明確にしましょう。
また、委託費は収支に直結するため、相場やサービス内容とのバランスを考慮することが大切です。基本管理費以外の費用の有無も、事前に確認しましょう。さらに、管理会社のトラブル対応力は、24時間対応の有無や実際の対応実績を参考に判断することが望まれます。これらの点をもとに選定することで、安定した物件運営につなげられるでしょう。
修繕・メンテナンス計画
計画的な修繕・メンテナンスは、物件価値を維持するうえで欠かせません。まず、給排水や空調設備など、建物状態を定期的に点検し、問題を早期に発見・対処することで、大規模なトラブルを未然に防ぎます。
また、予想外の修繕費用に備えて、月額家賃の10%程度を目安に積み立てておくと安心です。主要設備の更新時期を見極め、計画的な更新計画を立案することで、急な支出を抑えられるでしょう。長期的視点に基づく修繕・メンテナンス計画が、安定した賃貸運営につながります。

一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
【保有資格】宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社で新規事業立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に4年間従事。その後、リストグループで不動産仲介営業・営業管理職・支店長を経て、一心エステート株式会社を創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、東京都心を中心に不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。