マンションの管理費や修繕積立金は年々上昇傾向にあり、高齢者や年金生活者にとって大きな負担となる可能性があります。
管理費が払えない場合の対処法だけでなく、予防策まで丁寧に解説します。
老後はマンションの管理費や修繕積立金が払えない可能性がある?
老後にマンションの管理費や修繕積立金が払えない可能性はあります。
なぜなら、退職などにより収入が減るにも関わらず、固定資産税などに加えて管理費や修繕積立金がかかるためです。
マンションの管理費とは?修繕積立金との違いも
まずマンションの管理費と修繕積立金の違いについて理解しておきましょう。
管理費は、マンションの日常的な維持管理に使われる費用です。
具体的には、下記の費用が含まれます。
- 共用部分の電気代
- エントランスにあるトイレの水道代
- 清掃費
- エレベーターなどの設備の点検
一方、修繕積立金は将来の大規模修繕に備えて積み立てる費用です。
具体的には、以下の費用が含まれます。
- 外壁の塗り替え
- 屋上などの防水工事
- 給排水管の取り換えなど
マンションの管理費と修繕積立金の相場
では、マンションの管理費と修繕積立金の相場はどの程度なのでしょうか。
国土交通省の「令和5年度マンション総合調査結果」によると、管理費の平均月額は11,503円です。また修繕積立金の平均月額は13,054 円です。
つまり合計で約25,000円支払う計算です。
マンションの築年数などにより価格は変動するため、事前に確認しておきましょう。
管理費と修繕積立金はずっと同じとは限らない
老後の計画を立てるときは、管理費や修繕積立金は増加する可能性があることを忘れないようにしてください。
建物の老朽化が進むと、修繕の頻度が増えて修繕積立金の値上げにつながります。
また近年、人件費や材料費などの費用が高騰している影響から、管理費や修繕積立金が上昇傾向にあります。
国土交通大臣指定の「東日本不動産流通機構(レインズ)」によると、首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金は、ここ5年ほどで上昇し続けています。
首都圏中古マンション管理費・修繕積立金などの年度別推移(1戸あたり)
管理費(月額) | 修繕積立金(月額) | |
2017年 | 12,086円 | 10,013円 |
2018年 | 12,138円 | 10,392円 |
2019年 | 12,211円 | 10,683円 |
2020年 | 12,480円 | 11,071円 |
2021年 | 12,321円 | 11,164円 |
2022年 | 12,480円 | 11,474円 |
2023年 | 12,831円 | 11,907円 |
(レインズを通して成約した首都圏中古マンションのデータ)
老後は毎月の収入が減ることから、マンションに住み続けることに不安を覚える人は多いでしょう。
管理費や修繕積立金が値上がりする理由
人件費や材料費の高騰以外にも管理費や修繕積立金が値上がりする原因はあります。ここでは3つの要因について詳しく見ていきましょう。
- ディスポーザー排水処理システム
- マンションの総戸数が少ない
- 機械式駐車場や立体駐車場
それぞれ解説します。
ディスポーザー排水処理システムを導入している
近年、生活の利便性向上のためにディスポーザー排水処理システムを導入するマンションが増えています。
このシステムは生ゴミを細かく砕いて下水に流すため、ゴミ出しの手間が省けるなどのメリットがあります。
しかし、ディスポーザー排水システムは定期点検や修理の費用、電気代などがかかるため、管理費や修繕積立金の増加につながります。
マンションの総戸数が少ない
一般的なマンションだと、総戸数が少ない場合は一戸あたりの負担額が増加するため、管理費や修繕積立金が高くなります。
可能であれば、戸数が多いマンションを購入しましょう
マンション内に機械式駐車場や立体駐車場がある
機械式駐車場や立体駐車場があるマンションも、管理費や修繕積立金が値上がりする可能性が高いです。
都市部のマンションでは、限られたスペースを有効活用するために機械式駐車場や立体駐車場を採用しているケースが多くあります。
機械式駐車場や立体駐車場は、自走式駐車場より維持管理が高くなる傾向があります。
メンテナンス費用や電気代などが必要になるため、管理費や修繕積立金が高くなる可能性が高いです。
建て替えによる費用負担が増加する可能性も
マンションの老朽化が進むと、建て替えという選択肢が出てくる場合があります。
しかし、費用が高額だったり、区分所有者の合意も難しかったりするため、実際に建て替えが行われるケースは稀です。
1953年に日本で最初の分譲マンションができて以来、国内で建て替えられたマンションの累計は2024年4月時点で297件です。
万が一、建て替えが決定した場合、区分所有者は多額の費用負担を求められる可能性があることは理解しておきましょう。
管理費や修繕積立金を延滞したらどうなるのか
経済的な理由などで管理費や修繕積立金の支払いが困難になった場合、延滞するとどうなるのでしょうか。
まず、管理組合から督促状が送られてきます。
それでも支払いがない場合、法的な手続きに移行する可能性があり、長期間の滞納が続くと、マンションの区分所有権を失う可能性さえあります。
管理費などの滞納は、経済的な問題だけでなく、マンションに住み続けられなくなるかもしれません。
戸建にもデメリットはある
マンションに住むと管理費や修繕積立金の負担の不安から、戸建に住むことを考えている方もいるでしょう。
しかし戸建にもデメリットはあるので、確認しておきましょう。
まず戸建でも下記の固定費は必要です。
- 固定資産税
- 修繕費用
またマンションと比べて部屋数が多かったり外気と触れる面積が広く熱が外に逃げやすいため、光熱費が高くなる傾向があります。
戸建はマンションと比べると、駅から遠い場所に立地していることが多いです。老後の生活範囲も考慮すると、買い物など不便を感じるケースも増えるかと思います。
また、子どもの独立後は広い家だと手入れが大変で、片付けや掃除に支障をきたすでしょう。
管理費・修繕積立金が払えない場合の予防策・対処法
ここからは、管理費や修繕積立金が払えない状況を予防し、また実際に支払いが困難になった場合の対処法について詳しく解説します。
- 管理費内訳や大規模修繕の工事費用の見直し
- 現役のうちに住宅ローンをできるだけ返済する
- リースバックを検討する
- 築古を購入するなど初期費用をおさえる
- 不測の値上がりに備えて資金に余裕を持たせる
- 管理組合の活動を頑張る
- 売却して戸建てに住み替える
それぞれ解説します。
管理費内訳や大規模修繕の工事費用の見直し
管理費や修繕積立金への対策として、まずは管理組合の収支報告をチェックし管理費の内訳を確認するのがおすすめです。
前の章で解説した、ディスポーザー排水処理システムのような設備の運用は適正かなど確認してください。次に管理組合の総会での削減を提案しましょう。
工事費用の見直しもおすすめです。予算が足りなくなったり、修繕が必要になったりすると、修繕積立金は値上がりしていきます。工事費用の削減はもちろん、必要に応じて施工会社や管理会社の変更も検討する必要があります。
定期的に管理費の内訳や大規模修繕の予定などを見直し、無駄な支出がないか、より良い予算の組み方はないかを検討してみましょう。
現役のうちに住宅ローンをできるだけ返済する
管理費や修繕積立金が払えなくなる前に、住宅ローンをできるだけ返済しておきましょう。
退職後まで住宅ローンの支払いが残っていると、経済的負担は大きくなり生活を圧迫します。
対策として、現役で働いているうちに繰り上げ返済を行ったり、ボーナス返済をすることで、老後の固定費を削減することをおすすめします。
リースバックを検討する
管理費や修繕積立金が払えないときの対策として、リースバックも検討してください。
リースバックとは、自分が所有している物件を不動産会社に売却し、その不動産会社から賃貸物件として借り、同じ家に住み続ける方法です。
リースバックを行うと、物件の売却益を活用し家賃を支払っていくという仕組みであるため、老後の支払いの不安は軽減されるでしょう。
マンションの所有者から借主へと立場が変わり、貸主であるリースバック会社が修繕義務を負います。修繕積立金や管理費、固定資産税の支払いもリースバック会社が行います。
そのほかに、売却でまとまった現金を得た後も同じ家に住み続けられたり、周囲に知られず売却できたりすることがメリットです。
デメリットとしては、賃貸借契約を結ぶため家賃が値上がりする可能性があります。管理費と修繕積立金より高い家賃を支払い続けるため、修繕積立金や管理費を払えない人だと、破たんする可能性があります。
築古を購入するなど初期費用をおさえる
老後の支払いに不安がある場合は、購入する物件の費用をおさえるようにしてください。
管理費や修繕積立金などの固定を考慮し、問題なく支払いできる築古の物件がおすすめです。都心部や駅近にあるなどの人気エリアは、古い物件でも価格が下がりにくい傾向にあります。
注意点としては、築古の物件の場合はすぐに修繕費用が必要になったり、すでに管理費や修繕積立金が高くなっていたりする可能性があります。
不測の値上がりに備えて資金に余裕を持たせる
管理費や修繕積立金の値上げに備え、資金に余裕を持たせておきましょう。
ある程度資金に余裕を持たせられるように、毎月の支出から一定額を貯蓄しておくなど老後の生活を計画することをおすすめします。
また老後の主な収入源は年金の人が多いと思いますが、退職金の運用などで対策することも選択肢のひとつです。
管理組合の活動を頑張る
マンション管理組合の活動を頑張ることも、将来の管理費や修繕積立金への対策になります。
管理組合の活動は重く、報酬が出ても時給1,000円〜2,000円程度で宿題はたくさんありますが、積極的に参加することで管理費や修繕積立金を適切に運用できるでしょう。建物の将来も予測できるため安心して暮らせます。
管理組合に参加することが管理費や修繕積立金への対策になるだけでなく、生活のしやすさにも影響するでしょう。
売却して戸建てに住み替える
管理費や修繕積立金の支払いが厳しいのであれば、マンションを売却し戸建に住み替えることも検討しましょう。
戸建ては管理費や修繕積立金が必要でないため、毎月の固定費は軽減されます。
ただ、戸建てでも定期的に維持費が必要になったり、光熱費が高くなったりする傾向があるため注意しておきましょう。
売却しやすいマンションを購入することが重要
将来的にマンションを売却することを検討しているなら、売却しやすいマンションを購入することが重要です。
一般的に売却しやすいマンションの特徴は、以下のとおりです。
- 駅から近い
- 閑静な住宅街にある
- 設備が充実している
マンションを購入するときは、老後の計画も考えておくことがおすすめです。
マンション購入は不動産会社選びが鍵
マンションを購入するときは、不動産選びが重要です。
実績や知識が豊富で、長年経営している不動産会社を選ぶようにしてください。
その他にも、不動産会社を選ぶときは以下の点も確認しておきましょう。
- 良いことだけでなく悪いことも言ってくれる
- アフターフォローがきちんとしている
- ライフプランや購入に最適な物件のアドバイスをもらえる
(資金計画や買うべきタイミングかの相談ができるなど)
不動産会社を選ぶときは、2〜3社に相談することをおすすめします。
管理費以外にも老後のマンション暮らしでの注意点
マンションを購入し、生活していくうえで管理費以外にも注意しておくべき以下のようなポイントがあります。
- 管理費や修繕積立金以外に固定資産税もかかる
- 自分の意思で修繕や建て替えができない
- 管理規約や総会の決議を遵守する必要がある
それぞれ解説します。
管理費や修繕積立金以外に固定資産税もかかる
マンションで生活していくうえで、毎月の固定費として管理費や修繕積立金が必要ですが、毎年の固定資産税も支払う必要があります。
固定資産税とは、土地と建物の評価額に基づいて課税される税金です。
マンションにより評価額は異なりますが、費用としては新築が10万円〜30万円ほど、中古で10万円〜20万円ほどが平均的な金額です。
月々に換算すると、1万円〜3万円ほど積み立てておく必要があります。
管理費や修繕積立金以外にも、固定資産税の支払いも必要であることを理解しておきましょう。
自分の意思で修繕や建て替えができない
マンションでは自分の意思だけでは、修繕や建て替えができません。
たとえば外壁の塗り替えやエレベーターの更新など、建物全体に関わる修繕は他の住民の同意が必要です。
逆に自分は必要ないと感じていても、多数決で決まれば修繕などは実施されてしまいます。
このようにマンションは個人の意思ではなく集団での多数決が優先されます。
老後の生活を考えるときは、意図していない費用が必要になる可能性があることを理解しておいてください。
管理規約や総会の決議を遵守する必要がある
マンションで暮らしていく場合は、管理規約や総会の決議を遵守しましょう。
たとえば、管理規約でペット禁止や喫煙禁止などの行動が禁止されている可能性もありますが、多くの住民が快適な住環境を維持するためには必要不可欠です。
もしかすると老後は、若い世代の住民との価値観が異なり、マンションの管理規約や風習に馴染めないかもしれません。
一方、防犯対策などは多くの人の目があるため、組織的に対策できることはメリットでしょう。
快適にマンションで生活していくために、管理規約などを理解し、守っていく意識が大切です。
老後の住居選びでは、管理規約などのマンションの特性を理解し、自分のライフスタイルに合うか検討してみてください。

一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社で新規事業立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に4年間従事。その後、リストグループで不動産仲介営業・営業管理職・支店長を経て、一心エステート株式会社を創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、東京都心を中心に不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。
【保有資格】
宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士