転勤や引っ越し、経済状況の変化を理由に、住宅ローンが残っていてもマンションを貸したいと考える方は少なくありません。実際に「ローンがあるけど賃貸に出せるのか」といった疑問を抱えるケースもよく耳にします。
しかし、住宅ローンが残った状態で賃貸を始めるには、クリアすべき条件や注意すべきポイントが複数存在します。適切な準備を怠ると、トラブルや損失につながる可能性もあるため、しっかりと理解したうえで進めることが大切です。
賃貸に出す具体的な方法や注意点をわかりやすく解説し、安心して賃貸経営をスタートさせるためのポイントをお伝えします。
住宅ローン中のマンションは賃貸に出せるのか
初めに、住宅ローン返済中のマンションを賃貸に出すことが可能なのかという点について、基本的なルールから確認していきましょう。
住宅ローン利用中の基本ルール
通常は「自己居住用」という条件がないと、住宅ローンを利用してのマンション購入はできません。
住宅ローンにはさまざまな優遇制度が適用されており、その代わりに購入者自身がそのマンションに居住することを条件としているためです。優遇制度としては、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)や、借入時の金利優遇などが挙げられます。
住宅ローン中の賃貸は原則不可
基本的に、住宅ローン返済中のマンションは賃貸に出せません。
無断で賃貸に出した場合、ローン契約違反として一括返済を求められたり、優遇金利が適用されなくなって金利が上昇したりするリスクがあります。
また、住宅ローン控除が受けられなくなり追徴課税される可能性や、金融機関との信用関係が損なわれるといった問題も発生する可能性があります。
例外的に賃貸できるケース
いくつかの例外的なケースでは、住宅ローン返済中でも賃貸に出すことが認められます。以下では、そうした例外的なケースについて詳しく見ていきましょう。
転勤などのやむを得ない事情がある場合
勤務先からの転勤命令や進学、留学、親族の介護、病気療養といった「やむを得ない事情」がある場合、金融機関の承認を得ることで賃貸が認められることがあります。
賃貸が認められた場合は、必ず事前に金融機関に相談し、必要な手続きを行うことが重要です。金融機関によって認められる条件や必要書類は異なりますので、早めの相談を心がけましょう。
賃貸併用住宅として契約している場合
当初から賃貸併用住宅として住宅ローンを組んでいる場合は、その契約内容に基づいて賃貸部分を貸し出すことが可能です。この場合、建物の一部を賃貸用として使用することが前提となっているため、特別な手続きは必要ありません。
マンションを賃貸に出す具体的な流れ
住宅ローン中のマンションを賃貸に出すことが可能となった場合、実際にどのような手順で進めていけばよいのでしょうか。ここからは、具体的な流れについて説明していきます。
金融機関への相談と手続き
最初に行うべきは、住宅ローンを借り入れている金融機関への相談です。賃貸に出す理由や期間、今後の返済計画などを詳しく説明し、必要書類を提出する必要があります。
金融機関によって要求される書類は異なりますが、一般的には転勤証明書や診断書などの証明書類、収支計画書などが必要です。
管理組合への確認と手続き
マンションの管理規約によっては、賃貸に関する制限が設けられている場合があります。管理組合に確認し、必要な手続きを行いましょう。
一般的に必要となる手続きとしては賃貸届の提出や、賃借人への管理規約の説明などがあります。これらの手続きを怠ると、トラブルの原因となる可能性があります。
リフォームの要否と費用検討
賃貸に出す前に、室内のリフォームが必要かどうかを検討します。賃貸物件として競争力を持たせるには、ある程度の設備更新やメンテナンスが必要になることが多いでしょう。
クロスの張替えや水回りの修繕、エアコンの設置など、具体的な工事内容と費用を見積もっておくことが重要です。
賃貸管理会社の選定と契約
賃貸管理会社に求められる主な業務は、入居者の募集や審査、契約手続き、家賃の集金、建物の維持管理、入居者とのトラブル対応などです。これらは、安定した賃貸経営を行ううえで非常に重要です。
選定時は複数の管理会社の実績や評判、手数料体系などを比較検討し、信頼できる会社を選びましょう。
家賃の設定方法
適切な家賃設定は空室リスクを減らし、安定した収入を得ることにつながります。
同じような築年数、間取り、設備の物件の相場を参考にしながら、自身の物件の特徴や立地条件を加味して家賃を設定していきます。
最初は入居者を確保することを優先した高すぎない価格設定で、徐々に値上げして市場価値を見極めていく方法もおすすめです。
契約形態の選択
賃貸契約は、大きく分けて普通借家契約と定期借家契約の2種類があります。それぞれの違いと特徴を理解したうえで、自身の状況に合った契約方法を選択しましょう。
普通借家契約のメリット・デメリット
普通借家契約は、最も一般的な賃貸契約です。期間の定めはあるものの、期間満了時に契約更新が可能で、借主の居住権が強く保護されています。
家主側にとっては安定した賃料収入が期待できる反面、将来的に自己使用を理由とした解約が難しくなる可能性があることに注意が必要です。
定期借家契約のメリット・デメリット
定期借家契約は、契約期間満了時に更新がなく確実に契約が終了する契約です。将来的な自己使用の予定がある場合や、柔軟な賃料改定を行いたい場合に適しています。
ただし、契約締結時に公正証書の作成が必要となり、費用の負担が発生することや、契約更新がないことで入居者が敬遠する可能性があることなどのデメリットもあります。
住宅ローンの借り換えと手続き
賃貸運用を本格的に始める場合、住宅ローンの借り換えを検討する必要が出てくることもあります。ここでは、その具体的な手続きと注意点について解説します。
賃貸用ローンへの借り換え
住宅ローンから賃貸用ローンへの借り換えは、金融機関によって対応が異なります。主な金融機関別の特徴を見ていきましょう。
民間金融機関の場合
民間金融機関では、賃貸用物件向けの専用ローン商品を用意していることが多くあります。一般的に金利は住宅ローンより高めになりますが、賃貸収入を返済原資として認めてもらえるなどのメリットがあります。
借り換えの際は、複数の金融機関の商品を比較検討することをおすすめします。
住宅金融支援機構(フラット35)の場合
フラット35を利用している場合、賃貸用途への切り替えには一定の制限があります。基本的に自己居住用が原則ですが、やむを得ない事情がある場合は、一時的な賃貸が認められることがあります。
ただし、長期的な賃貸運用を行う場合は、他のローンへの借り換えを検討する必要があります。
金利上昇と返済負担の変化
賃貸用ローンへの借り換えにあたっては、金利の上昇による返済負担の増加について慎重に検討する必要があります。賃貸収入だけでなく、自身の収入状況も踏まえた無理のない返済計画を立てることが重要です。
また、将来の金利変動リスクも考慮し、固定金利型と変動金利型のどちらが適しているかも検討しましょう。
必要な手数料・費用
ローンの借り換えには保証料、事務手数料、抵当権設定費用、不動産評価費用などが必要です。金融機関によって必要な費用は異なりますので、借り換えの検討段階で詳しく確認しておきましょう。
また、手数料を含めた総額で、借り換えを行うべきか判断する必要があります。
賃貸に出す際の注意点とリスク
最後に、マンションを賃貸に出す際に注意すべきポイントとリスクについて詳しく解説していきます。これらを事前に理解し、適切な対策を講じることで、より安定した賃貸運営を目指せるでしょう。
住宅ローン控除が適用されなくなる影響
住宅ローン控除は、自己居住を条件としている税制優遇制度です。賃貸に出すことで、この控除が受けられなくなる可能性が高くなります。
具体的な影響額は、残りの控除期間や借入残高によって異なりますが、年間数十万円の税負担増となることもあります。このため、賃貸収入と税負担の増加を総合的に考慮し、収支計画を立てる必要があります。
また、過去に受けた控除について、さかのぼって返還を求められるケースもあります。特に、賃貸開始時期が年度の途中である場合は、その年の控除適用について税務署に確認することをおすすめします。
空室リスクと収支計画
賃貸経営において最も注意すべきリスクの一つが、空室リスクです。入居者が退去したあと、次の入居者が決まるまでの期間は家賃収入を得られません。この期間中もローンの返済や管理費、修繕積立金などの固定費は発生し続けます。
空室リスクに備えるには、以下のような対策が重要です。
- 数カ月分の固定費を準備金として確保する
- 物件の競争力を維持するための定期的なメンテナンス
- 適切な家賃設定の見直し
さらに、長期の入居者を確保するために、入居者とのコミュニケーションを大切にし、快適な住環境を提供することも重要です。
入居者トラブルへの対応
賃貸経営では、さまざまな入居者トラブルが発生する可能性があります。家賃の滞納、騒音問題、近隣とのトラブル、設備の故障や破損など、問題は多岐にわたります。これらのトラブルに適切に対応するには、管理会社との連携が不可欠です。
特に重要なのは、トラブルを未然に防ぐための対策です。入居者の審査を慎重に行うこと、契約書や重要事項説明書の内容を明確にすること、定期的な物件の点検を実施することなどが挙げられます。
また、賃貸借契約に関する法律知識を身につけておくことも、トラブル対応には有効です。
管理の手間と費用
賃貸経営には、想像以上の管理の手間と費用がかかることを理解しておく必要があります。管理会社に委託する場合、一般的に家賃の5〜7%程度の管理手数料が発生します。また、建物の経年劣化による修繕費用、設備の更新費用なども必要です。
さらに、入居者の募集時には広告費用が必要となり、退去時には原状回復工事の費用が発生することもあります。これらの費用を適切に見積もり、長期的な収支計画に組み込んでおくことが重要です。
高田 一洋(たかだ かずひろ)
一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
【保有資格】宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産仲介営美・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師等を務める。豊富な不動産知識に加え20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。