マンションを所有している方の中には、さまざまな理由で賃貸として活用することを検討される方も多いでしょう。
しかし、賃貸物件の経営には想像以上の負担やリスクが伴います。
本記事では、マンションを賃貸に出す際のデメリットを詳しく解説し、売却との比較や対策についても紹介していきます。
マンションを賃貸に出す際の主なデメリット
マンションの賃貸経営を始める前に、費用面、運営面、資産面という3つの主要な観点からデメリットについて十分に理解しておく必要があります。
それぞれの課題に対する対策を行うことで、リスクを最小限に抑えることが可能です。
費用面のデメリット
マンションの賃貸経営では多くの費用負担が発生します。
特に、初期費用と継続的な費用の両面を理解する必要があるといえるでしょう。
初期費用(リフォーム・クリーニング費用)がかかる
マンションを賃貸として提供する際は、入居者が快適に暮らせる環境を整える必要があります。
以下は、初期費用でかかる費用の目安です。
項目 | リフォーム内容 | 費用の目安 |
---|---|---|
壁紙張替え・床材交換 | 内装の汚れや傷の修繕 | 50万円~200万円 |
キッチン・浴室・トイレ改修 | 水回り設備の更新 | 30万円~100万円 |
照明器具交換・エアコン設置 | 照明や空調設備の更新 | 15万円~50万円 |
クリーニング費用 | 入居者募集前の全体的な清掃 | 5万円~15万円 |
継続的な費用負担(管理費・修繕積立金)が発生する
マンションの賃貸経営では継続的な支出が発生しますが、主な支出として管理費、修繕積立金、税金などが挙げられます。
管理費は月額1〜3万円、修繕積立金は月額5,000円〜2万円程度が一般的です。
さらに、固定資産税と都市計画税が課税されるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
例えば、評価額が2,000万円の物件の場合、以下の計算式をもとに割り出すことができます。
【固定資産税(課税標準額)】
- 固定資産評価額:2,000万円
- 標準税率:1.4%
- 固定資産税:2,000万円 × 1.4%(0.014)= 28万円
【都市計画税】
- 固定資産評価額:2,000万円
- 都市計画税:2,000万円 ×0.3%(0.003)= 6万円
固定資産税と都市計画税は、賃貸でも住宅用の物件であれば減税されることがあります。
固定資産税と都市計画税については、国税庁の公式ウェブサイトやお住まいの自治体ホームページで確認することをおすすめします。
税金関連について正しい知識を得る必要がある
マンションの賃貸収入に関する税務は複雑で、適切な知識と管理が必要です。
まず、不動産所得では所得税と住民税が課税対象となります。
さらに、年間の不動産所得(売上)が1,000万円を超える場合、課税事業者となるため消費税がかかることも覚えておきましょう。
賃貸マンションなど居住用物件であれば、条件を満たすことで消費税は非課税となります。
また、修繕費や管理費、保険料などは経費として認められるため、確定申告で正しく申告することで節税に繋がります。
参考:国税庁 | 消費税法改正のお知らせ
特別控除や税制優遇制度が受けられない
住んでいたマンションを賃貸に出すことで、それまで受けられていた税制優遇が適用されなくなることは大きなデメリットといえるでしょう。
住宅ローン控除は自己居住が条件となるため、賃貸に出した時点で適用対象外となります。
また、マイホーム(居住用財産)を売却した際に利用できる、3,000万円特別控除なども受けられなくなります。
参考:国税庁 | No.3302 マイホームを売ったときの特例
運営面のデメリット
マンションの賃貸経営では、物件の管理や入居者対応など多くの運営業務が発生します。
運営業務は想像以上に時間と労力を要することがあり、十分な準備と対策が必要です。
ここでは、賃貸経営における運営面でのデメリットについて見ていきましょう。
常に空室のリスクを考える必要がある
マンションの賃貸経営における最大の課題が空室リスクです。
立地条件や築年数による需要低下、周辺の賃貸物件との競争、季節要因などにより、空室期間が発生する可能性があります。
特に、引っ越しシーズン以外の時期や経済状況の悪化時により、入居者の確保が困難になるかもしれません。
空室期間中も管理費や修繕積立金などの固定費は発生するため、長期間の空室は大きな損失につながります。
入居者のトラブル対応
賃貸経営では、入居者との関係性が重要な課題となっており、中でも最も深刻なのは家賃の滞納問題です。
入居者の経済状況の急変により、家賃の支払いが滞る可能性があります。
さらに、騒音や生活マナーに関する近隣からの苦情、無断転貸や契約違反など、さまざまなトラブルが報告されています。
これらのトラブルに適切に対応するには、法律知識や交渉スキルが必要となり、場合によっては弁護士への相談も必要になります。
物件管理に対する手間と労力
賃貸物件の管理として、定期的な設備点検や修繕対応、入居者からの問い合わせ対応などが挙げられます。
特にイレギュラーな修繕依頼は、深夜や休日であっても対応を行うケースもあるようです。
管理会社に対応を任せている場合を除き、上記の作業を所有者自身が行うため大きな負担となります。
資産面のデメリット
マンションの賃貸経営は、資産価値の維持という観点でも多くの課題があります。
たとえば、自宅を賃貸に出すことで、マンションの価値は自己使用の場合と比べて早く低下する傾向にあります。
入居者が設備や内装を粗雑に扱った場合、通常よりも劣化が早まるかもしれません。
劣化が目立ってしまうと、マンションの売却時に価格を下げる要因となることもあります。
マンションを賃貸に出す場合の対策と注意点
マンションを賃貸に出した場合に発生するデメリットは、適切な対策を講じることで影響を最小限に抑えることができます。
具体的な対処法と注意点について解説していきます。
賃貸物件の管理を専門の会社に依頼する
賃貸管理を専門の会社に委託することで、運営面での負担を軽減できます。
管理会社は入居者の募集から契約手続き、家賃徴収、建物維持管理まで、包括的なサービスに対応しています。
また、トラブルが発生した際の対応も代行してくれるため、物件所有者の精神的な負担も大きく軽減されるでしょう。
一方で、管理委託料として家賃の5%程度が必要となり、家賃収入が少ないと収益を圧迫する要因となります。
管理会社は会社によってサービスや品質に大きな差があるため、選ぶときは慎重に検討してください。
適切な管理会社の選び方
管理会社を選ぶときは、実績や評判だけでなく、以下のような点にも注目する必要があります。
- 管理している物件の件数
- 会社の創業年数
- 緊急時の対応体制
- 定期的な報告の内容
- 会社の財務状況
特に重要なのは、担当者との相性や連絡体制の充実度です。
トラブルが発生した際の対応の迅速さや、所有者の要望に柔軟に対応できるかといった点は、長期的な関係を築く上で非常に重要になります。
家賃設定のポイント
適切な家賃設定はマンションを賃貸に出す上で重要な要素です。
周辺の相場よりも高すぎると入居者が集まりませんし、逆に低すぎると必要な収益を確保できません。
家賃設定は物件の立地、築年数、設備の状態などの基本的な条件に加え、周辺にある競合物件の動向も考慮する必要があります。
最近では、ネット環境や宅配ボックスなどの付帯設備の有無が家賃設定に影響しています。
また、入居者のニーズは時代とともに変化するため、必要に応じて設備投資を検討するとよいでしょう。
入居者審査をするときに注意すること
良好な賃貸経営を維持するためには、入居者の審査が極めて重要です。
収入や勤務先の確認はもちろん、過去の賃貸借契約における滞納歴や問題行動の有無なども可能な限り確認しておきましょう。
保証会社の審査を利用することで、一定のリスクを軽減することが可能です。
ただし、審査基準が厳しすぎると入居者の確保が困難になる可能性もあるため、物件の特性や地域性を考慮しながら、適切な審査基準の設定が求められます。
トラブル防止のために契約書を作成する
賃貸借契約書は、将来的なトラブルを防ぐための重要な法的文書です。
賃貸借契約書には使用細則や禁止事項を明確に記載し、特に騒音、ペット飼育、契約解除条件などについては詳細に記載しておきましょう。
近年増加している民泊利用や事業利用についても、明確な規定を設けることが望ましいです。
保険加入の必要性と種類を理解する
マンションの賃貸経営にはさまざまなリスクを伴うため、適切な保険への加入が不可欠です。
火災保険に加えて、家賃保証保険や施設賠償責任保険なども検討する必要があります。
特に家賃保証保険は、入居者の家賃滞納リスクに備える重要な対策です。
また、水漏れなどによる階下への損害賠償リスクも考慮し、十分な補償内容の保険を選択してください。
賃貸にすることが最善なのかを検討する
マンションの活用方法として、賃貸経営以外の選択肢についても十分な検討が必要です。
ここでは、賃貸に出す以外のマンションの活用方法を紹介します。
売却を検討すべきケース
以下のような状況では、賃貸よりも売却を検討した方が良いでしょう。
- 物件の立地や築年数から将来的な価値の低下が懸念される場合
- 所有者の年齢や健康状態から、長期的な管理が困難と判断される場合
- できるだけ早く現金がほしい場合
早期に売却して住宅ローンを完済する方が、長期的なリスクを抑えられる可能性があります。
民泊など代替活用方法との比較
近年では、賃貸物件として利用する以外の活用方法が増えてきています。
民泊はその代表例で、適切な運営ができれば通常の賃貸経営よりも高い収益が期待できます。
ただし、民泊を始めるには旅館業法を取得し、認定を得たり届出を行ったりするほか、設備投資が必要になります。
民泊として運営するのが難しいと感じた方は、シェアハウスやコワーキングスペースとしての活用を選択しましょう。
これらの賃貸とは異なるニーズに応えることで、周囲に競合がいなければ収益を上げやすくなる可能性があります。
相続税の対策として賃貸を活用する
相続税の対策という観点から、マンションの賃貸経営には一定のメリットがあります。
通常、自宅よりも誰かに賃貸に出すほうが、相続税評価額(相続税を計算する際の財産の価値)は低く設定されます。
ただし、賃貸として活用した場合の節税効果は、物件の収益性や市場状況に依存するため、事前に十分な検討が必要です。
相続税対策として賃貸の活用を検討する際は、税理士や不動産会社など専門家と相談し、対応方法を確認しておくと確実です。
マンションを賃貸に出すときの注意点
最後に、実際に賃貸経営を始めたときの具体的な注意点をまとめます。
マンションの賃貸経営で失敗しないように、きちんと理解しておきましょう。
エリア内で需要がある物件か考える
マンションの賃貸経営で成功するには、物件の需要が大きく左右します。
物件があるエリアの人口や周囲の開発計画、交通アクセスの変化など、将来的な需要に影響を与える要因を分析することが大切です。
特に、大規模な再開発計画がある地域や、新規の賃貸物件の供給が多い地域では、将来的な需要と供給のバランスを確認しましょう。
賃貸に出したときの利回りを計算しておく
マンションの賃貸経営を始める前に、想定される収支を詳細に計算することが不可欠です。
家賃収入から諸経費を差し引いた実質的な収益を算出し、投資額に対する利回りを確認する必要があります。
また、将来的な大規模修繕や設備更新なども考慮に入れ、長期的な収支計画を立てることが重要です。
一般的に、マンションの経営の利回りは年5%〜8%程度が理想とされていますが、物件の条件や管理状態によって大きく変動します。
賃貸運営に強い不動産会社に依頼する
賃貸経営のパートナーとなる不動産会社の選定は、非常に重要な要素です。
そのため物件の紹介だけでなく、市場分析から管理運営のサポートまで、総合的なサービスを提供できる会社を選ぶことが望ましいでしょう。
マンションを賃貸に出すにはさまざまなデメリットがありますが、事前の準備と正しく対策をすることで、安定的な運営が可能になります。
ぜひご自身の状況に合わせて、最適な活用方法を選択してください。
高田 一洋(たかだ かずひろ)
一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
【保有資格】宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産仲介営美・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師等を務める。豊富な不動産知識に加え20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。