所有しているマンションを売却するか、それとも賃貸で運用するか迷っている人も多いでしょう。どちらを選択するにしても、それぞれにメリットとデメリットがあり、慎重な判断が必要です。この記事ではマンション売却と賃貸、それぞれの特徴や判断基準を詳しく解説します。
目次
マンションを売却するか賃貸にするか迷う場合の判断基準
マンションの活用方法を決めるときは、さまざまな要素を考慮する必要があります。ここでは、判断の基準となる、重要な要素を詳しく見ていきましょう。
マンションの立地から判断する
マンションの立地は、売却価格と賃料の両方に大きく影響する要素です。駅からの距離、周辺の施設の充実度、学校や公園などの有無などによって、マンションの価値は大きく変わります。
都心部や交通の便がよい地域では、将来にわたってマンションの価値を維持し続けられると期待できるため、長期的に収益を得られる賃貸運用を検討する価値があります。一方、今後の発展が見込みにくい地域や、高齢化が進む地域では、現時点で売却を検討したほうがよいと考えられるでしょう。
築年数と設備の状態から検討する
マンションの築年数や設備の状態は、維持管理のコストにつながる重要な要素です。築年数が浅く、設備が充実しているマンションであれば、当面の大規模修繕や設備更新の心配が少なく、賃貸運用にも適しています。
一方、築20年以上が経過し、給排水管の更新や外壁の大規模修繕が近づいている場合は、これらの費用の負担を考慮する必要があります。マンションの大規模修繕を前に、売却を決断する所有者も少なくありません。設備の状態が良好でなければ賃貸運用の前にリノベーションが必要となり、その投資額の回収も考慮する必要があるでしょう。
将来の居住予定の有無で決める
将来的に自身や家族が居住する可能性がある場合、マンションの売却は慎重に検討する必要があります。特に子どもの進学や就職に合わせてマンションの居住を考えている場合は、一時的な賃貸運用が有効な選択肢になるでしょう。
また、老後の住まいとして考えている場合も、現時点での売却は避けたほうが賢明かもしれません。将来的に居住する予定がない場合は、得られる利益から判断して売却か賃貸かを決められるでしょう。
地域別の売却・賃貸の傾向を把握する
マンションのある地域の不動産市場の特徴も、売却か賃貸かを判断するうえで欠かせないポイントです。地域によって、売買市場が活発なエリアもあれば、賃貸需要の高いエリアもあります。このような地域特性を把握しておくと、より的確な決定がしやすくなるでしょう。
たとえば、企業誘致や再開発が進み、人口流入が見込まれるエリアでは、賃貸ニーズが増えるため、家賃収入の安定を期待できます。一方で、高齢化が進むエリアでは、需要減少によるマンション価値の下落が考えられ、早めの売却が選択肢になるでしょう。
住宅ローンの残債状況で考える
住宅ローンの残債は、売却か賃貸かを判断するうえで重要なポイントです。まず、売却を検討する場合は、売却価格が住宅ローンの残債を上回るかどうかを確認しましょう。もし売却価格が住宅ローンの残債を下回ってしまう場合、不足分を自己資金で補う必要があり、経済的に大きな負担となります。
一方で、賃貸運用を考える場合は、毎月の賃料収入で住宅ローンの返済をまかなえるかを見極めることが大切です。賃料収入が返済額以上であれば、追加負担なく物件を維持できます。ただし、多くの住宅ローンは「居住用」としての利用が融資の条件のため、無断で賃貸に出すと契約違反となるおそれがあります。賃貸を検討するときは、事前に金融機関へ相談し、必要な手続きや条件などの確認が必要です。また、空室期間中も返済は続くため、賃貸収支が不安定でも対応できる資金計画を立てておきましょう。
マンション売却のメリットとデメリット
マンションを売却する場合、さまざまなメリットとデメリットがあります。どのようなメリットとデメリットがあるのか、それぞれ比較して検討のポイントにしましょう。
売却のメリット
売却を選択した場合、次のようなメリットが考えられます。これらのメリットをもとに、マンションの売却を考えてみましょう。
- まとまった現金収入が得られる
- 維持管理の手間から解放される
- 税制優遇を受けられる可能性がある
売却の最大の魅力は、一度にまとまった現金を手にできることです。売却で得た資金は、新たな投資や住み替え、事業、老後の生活費用など、さまざまな目的で活用できます。特に現在の経済状況や将来に備えると考えると、売却による現金化は大きなメリットといえるでしょう。
そのほかにも、マンションの修繕費用や管理費、固定資産税といった支出から解放されるのもメリットです。また、居住用財産を売却する場合は、3,000万円特別控除などの税制の優遇措置を受けられることがあります。譲渡所得税の負担軽減が期待できるため、条件を満たせるか確認してみましょう。
売却のデメリット
メリットばかりでなく、マンションの売却には次のようなデメリットもあります。自分の状況にどれくらい影響するのか、よく考えてみましょう。
- 資産として使えなくなる
- 売却時にいろいろな費用がかかる
- 価格変動のリスクがある
売却してしまうと、マンションを資産として持ち続けられなくなります。将来、マンションを貸し出して家賃収入を得たり、価値が上がるのを待ったりできなくなる点に注意が必要です。
また、仲介手数料や印紙代、登記費用といった、マンション売却の費用がかかります。これらの費用を差し引くと、手もとに残るお金は思ったほど多くないことがあります。また、売却によって得た利益には、譲渡所得税や住民税などの税金もかかることにも注意してください。
さらに、不動産市場は日々変化しているため、マンションが期待したほど高く売れないこともあります。逆にもう少し待てば、地域が発展してマンションの価値が上がることもあるでしょう。マンションを売却するタイミングを、よく見極める必要があるのです。
マンションを賃貸にするメリットとデメリット
マンションを賃貸として運用するときの、メリットとデメリットを見ていきましょう。売却するときと比べて、どちらのほうが自分に合っているか判断するポイントになります。
賃貸のメリット
賃貸としてマンションを活用する場合、次のようなメリットがあります。これらは、今後の生活やお金の計画を考えるうえで、非常に役立つポイントです。
- 継続して家賃収入が得られる
- 将来の売却や居住の選択肢が残る
- 経費計上による節税効果がある
賃貸の一番の魅力は、毎月、家賃という形でお金が入ってくることです。これにより、住宅ローンの返済や生活費をまかなったり、将来のためのお金を貯めたりできます。マンションの立地が良ければ、空室期間を短く抑えられるでしょう。家賃収入は給料とは違い、定年退職後も得られるのも魅力です。老後資金の強い味方になるかもしれません。
また、いまは賃貸に出していても資産として残るため、あとで物件を売却したり、自分や家族が住んだりすることもできます。もし、近隣の不動産価格が上昇すれば、高く売却できることもあるでしょう。さらに、マンションを賃貸にすると、管理費や修繕費などの費用を経費として計上できます。これによって、税金を安くできるかもしれません。また、賃貸に出すにあたってリフォームを行えば、その費用も経費として計上することが可能です。
賃貸のデメリット
メリットばかりでなく、デメリットにも目を向けることで、どのようなリスクがあるのかを事前に把握できます。賃貸でマンションを活用するときは、次のデメリットがあります。
- 空室リスクがある
- 管理維持費用が継続的にかかる
- 入居者対応の手間がある
マンションを賃貸物件として活用する場合、空室リスクがあります。入居者が退去して次の人が見つかるまで、家賃収入はゼロになってしまうのです。家賃収入が得られない間も、ローンや管理費といった固定費は払わなければなりません。人気のない立地や古いマンションだと、空室期間が長くなるリスクが高くなります。
また、賃貸物件の維持には、定期的な修繕や設備の交換が必要です。壁紙を替えたり、壊れた設備を直したりといった費用のほか、管理会社への費用などもかかります。こういった費用を家賃収入から差し引くため、手もとに残るお金はそれだけ少なくなります。
さらに、入居者から「水漏れがある」「隣の部屋がうるさい」といった相談が来た場合、オーナーとして対応しなければなりません。家賃の支払いが遅れることもあるでしょう。管理会社に任せれば手間は減るものの、それだけ費用がかかります。マンションが住居から遠いと、高齢のオーナーには大きな負担になるでしょう。
賃貸中のマンションを売却する方法
賃貸物件として運用しているマンションを売却する場合は、次のような選択肢があります。それぞれの売却方法の特徴を把握し、状況にあった最適な方法を選びましょう。
オーナーチェンジでの売却
オーナーチェンジとは、いまいる入居者がそのまま住み続けた状態で、そのマンションを売却する方法です。購入希望者は空室期間なしでマンションを買えるメリットがあるため、比較的スムーズに売却できます。
ただし、オーナーチェンジで売り出すと、ふつうの空き部屋よりも売却価格が安くなる傾向があります。なぜなら、買った人はすでに入居している人との契約を引き継ぐため、家賃や契約内容を容易に変更できないためです。また、居住目的でマンションを探している人にとっては購入対象とならず、需要も低いため、それが価格に反映されている側面もあります。
入居者退去後の売却
入居者が退去してから売りに出す方法もあります。この方法であれば、ふつうのマンションと同じように売り出せるため、購入希望者を増やせるでしょう。
一方で、入居者がいつ退去するかははっきりしないこともあり、待っている間にマンションの価格が下がってしまうおそれがあります。しかし、入居者に退去してもらう場合は、退去費用などの負担がかかることに注意が必要です。
入居者への売却
いま住んでいる入居者に、マンションを買ってもらう方法もあります。入居者にとっては、住み慣れた部屋を買えるので安心感があり、オーナーにとっては不動産会社の仲介手数料を節約できるメリットがあります。
ただし、入居者に「買いたい」という気持ちがなければ、そもそも取り引きが成立しません。また、マンションを購入するお金を用意できる、経済的な余裕も必要です。入居者と売買価格をめぐって意見が合わず、交渉が長引くこともあるでしょう。話し合いがうまくいかないと、入居者との関係が悪くなるリスクもあるため、注意して対応することが大切です。
高田 一洋(たかだ かずひろ)
一心エステート株式会社代表取締役 不動産コンサルタント
【保有資格】宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/損害保険募集人資格/管理業務主任者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー/相続診断士
1983年福井県生まれ。金沢大学工学部を卒業後、大手コンサルティング会社に入社、4年間、新規事業の立ち上げや不動産会社のコンサルティング業務に従事する。その後、当時の取引先リストグループに惹かれ入社。不動産仲介営美・営業管理職・支店長を経て、さらなる理想を追求するために一心エステートを創業。創業当初から金融機関・不動産会社へのコンサルティングを行い、ARUHI住み替えコンシェルジュでセミナー講師等を務める。豊富な不動産知識に加え20代で身に付けたコンサルティング技術、ファイナンス(お金・投資の知識)をもとに、東京都心の不動産仲介実績を積み上げている。2023年に著書「住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術: 不動産は「リセール指数」で買いなさい」を出版。