分譲マンションを賃貸に出す際の7つのポイントを解説

近年、ライフスタイルの多様化や働き方改革の影響により、分譲マンションの活用方法も変化してきています。所有するマンションを賃貸として運用することで、新たな収入源を確保しつつ、資産価値を維持できます。

分譲マンションを賃貸に出す際の重要なポイントについて、詳しく解説していきます。

1. マンションを賃貸に出す前に知っておくべきこと

分譲マンションを賃貸に出す際には、事前に確認しておくべき重要な事項がいくつかあります。これらを適切に把握することで、将来的なトラブルを防ぎ、スムーズな賃貸運営が可能となります。

賃貸に出すべきか売却すべきか

マンションの活用方法を検討する際、多くの所有者が「賃貸に出すべきか、それとも売却すべきか」迷います。この判断には、現在の不動産市況や物件の特性など、様々な要因を考慮する必要があります。

現在の不動産市況

不動産市場は常に変動しており、売却時期によって大きく価格が変わる可能性があります。現在の市況を適切に把握することで、より良い選択が可能となります。地域の取引事例や不動産専門家からの意見を参考にしながら、判断を行うことをおすすめします。

物件の将来性評価

物件の将来性を評価する際は立地条件、築年数、建物の管理状態などを総合的に判断します。特に、再開発計画がある地域や交通アクセスが改善される予定の地域では、将来的な価値上昇が期待できる可能性があります。

賃貸に出すための条件確認

賃貸運用を始める前に、いくつかの重要な条件確認が必要です。これらの確認を怠ると、後々大きなトラブルになる可能性があります。

管理規約の確認

多くの分譲マンションでは、管理規約で賃貸に関する規定が設けられています。中には賃貸を禁止しているケースや、賃貸に際して管理組合への届出を義務付けているケースもあります。事前に管理規約を確認し、賃貸が可能かどうかを確認しましょう。

住宅ローンの扱い

住宅ローンが残っている場合、賃貸に出すことで契約違反となる可能性があります。金融機関に確認を取り、必要に応じて契約内容の変更や借り換えを検討する必要があります。

管理組合への確認事項

管理組合に対しては、賃貸利用の可否だけでなく、具体的な手続きや制限事項についても確認が必要です。例えば、入居者の資格要件や使用細則などについても把握しておく必要があります。

2. 様々なケースでの賃貸活用

分譲マンションの賃貸活用は、所有者の状況によって様々なパターンがあります。それぞれのケースに応じた最適な活用方法を検討することが重要です。

転勤・一時的な転居の場合

転勤や海外赴任などで一時的に住めなくなる場合、賃貸活用は有効な選択肢となります。この場合、将来的な自己使用を考慮した運営方法を検討する必要があります。

期間限定の賃貸活用方法

期間が限定されている場合は、その期間に合わせた賃貸計画を立てることが重要です。家具付きでの賃貸や、短期賃貸としての運用なども検討価値があります。

定期借家契約の活用

定期借家契約を活用することで、確実な期間設定が可能となります。契約更新がないため、将来的な自己使用の予定が立てやすくなります。

相続物件の活用

相続により取得したマンションの活用方法として、賃貸運用は有効な選択肢の一つです。適切な運用により、相続税対策にもなり得ます。

相続税対策としての活用

賃貸として運用することで、相続税評価額が下がる可能性があります。また、維持費用や管理費用を経費として計上することで、節税効果も期待できます。

維持管理の効率化

相続物件の場合、専門の管理会社に委託することで、維持管理の手間を最小限に抑えられます。これにより、遠方に住んでいても効率的な運営が可能となります。

高齢化に伴う住み替え

高齢化に伴い、バリアフリー住宅への住み替えを検討するケースも増えています。その際の元の住まいの活用方法として、賃貸運用は有効な選択肢となります。

バリアフリー住宅への住み替え時の活用

高齢者向けの住宅に住み替える際、従来の住まいを売却せずに賃貸として運用することで、将来的な選択肢を残せます。また、賃貸収入を新たな住まいの費用に充てることも可能です。

将来の戻り住みを考慮した運用

将来的に状況が変化した場合の戻り住みを考慮し、大規模な改修は控えめにするなど、柔軟な運用を心がけることが重要です。

地方移住に伴う活用

近年増加している地方移住のケースでも、都心部の物件を賃貸として活用するケースが増えています。

リモートワーク時代の物件活用

リモートワークの普及により、都心部の物件を保有しつつ地方で生活するというライフスタイルも可能となっています。都心部の物件は、必要に応じて仕事用の拠点として活用もできます。

都心物件の資産活用

都心部の物件は賃貸需要が高く、安定した収入が期待できます。地方での生活費を賄う収入源としての活用も可能です。

3. マンションを賃貸に出すメリット・デメリット

賃貸運用には様々なメリット・デメリットがあり、これらを十分に理解したうえで判断を行う必要があります。

メリット

賃貸運用には経済的なメリットだけでなく、様々な利点があります。

定期的な家賃収入が得られる

安定した家賃収入は、生活の支えとなる重要な収入源となります。特に退職後の生活設計において、年金を補完する収入として期待できます。

資産として保有し続けられる

売却せずに保有を続けることで、将来的な資産価値の上昇も期待できます。また、次世代への資産継承という観点からも、有効な選択肢となります。

将来的な居住可能性を残せる

賃貸として運用しながらも、必要に応じて自己使用に切り替えることが可能です。ライフスタイルの変化に応じて、柔軟な対応が可能となります。

税金対策になる可能性

賃貸運用に関連する費用は、確定申告時に経費として計上できます。適切な運用により、税負担の軽減が期待できます。

デメリット

一方で、賃貸運用には注意すべき点も多くあります。これらを理解し、適切な対策を講じることが重要です。

空室リスク

入居者が見つからない期間は収入が得られず、管理費等の固定費のみが発生します。立地や物件の状態によっては、長期の空室も想定しておく必要があります。

管理の手間と費用

入居者対応や建物のメンテナンスなど、様々な管理業務が発生します。管理会社に委託する場合は、その費用も考慮に入れる必要があります。

入居者トラブルの可能性

家賃の滞納や騒音問題など、入居者とのトラブルが発生する可能性があります。適切な入居者選定と、トラブル対応の準備が重要です。

物件の経年劣化

時間の経過とともに建物は劣化していきます。定期的な修繕や設備の更新が必要となり、それに伴う費用も発生します。

4. 賃貸に出す具体的な手順

実際に賃貸運用を始める際は、計画的に準備を進めていく必要があります。

管理会社選び

賃貸運用の成功は、管理会社選びに大きく左右されます。信頼できる管理会社を選ぶことが重要です。

管理会社の選定ポイント

管理会社を選ぶ際は実績や評判はもちろん、対応の丁寧さや緊急時の体制なども重要な判断材料となります。複数の会社から見積もりを取り、比較検討することをおすすめします。

管理委託かサブリースか

管理形態として、通常の管理委託契約とサブリース契約があります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自身の状況に合った形態を選択します。

投資用マンションとの管理の違い

分譲マンションの賃貸運用は、投資用マンションとは異なる特徴があります。管理会社選びの際も、分譲マンションの賃貸運用の経験が豊富な会社を選ぶことが望ましいでしょう。

賃貸条件の設定

適切な賃貸条件を設定することで、安定した運用が可能となります。

家賃相場の調査

周辺の類似物件の家賃相場を調査し、競争力のある家賃設定を行います。設備や築年数なども考慮に入れ、適切な家賃を決定します。

契約形態の選択(普通借家・定期借家)

契約形態によって、権利関係や更新の有無が異なります。将来的な計画に合わせて、適切な契約形態を選択します。

入居者条件の設定

入居者の条件は、建物の特性や管理規約に基づいて設定します。過度な制限は避けつつ、適切な入居者選定が可能な条件設定を心がけます。

物件の準備

賃貸に出す前の物件準備も重要なステップです。

リフォームの要否判断

物件の状態を確認し、必要に応じてリフォームを検討します。投資対効果を考慮しつつ、魅力的な物件づくりを目指します。

設備・備品の確認

既存の設備の状態を確認し、必要な修理や更新を行います。また、賃貸に必要な備品がある場合は、その準備も行います。

物件写真の撮影と広告準備

魅力的な物件写真を撮影し、効果的な広告を作成します。間取り図や設備リストなども、正確な情報を提供できるよう準備します。

5. 収支とコストについて

賃貸運用を始める前に、詳細な収支計画を立てることが重要です。

必要な費用

賃貸運用には様々な費用が発生します。これらを事前に把握し、適切な収支計画を立てることが重要です。

初期費用(リフォーム・広告費等)

賃貸を始める際の初期費用は、物件の状態や運用方針によって大きく異なります。

例えば、賃貸を始める際の原状回復工事には、通常30~50万円程度の費用が必要です。この中には、1部屋あたり6~8万円程度のフローリング張替え、3~4万円程度のクロス張替え、そして5~8万円程度の水回り清掃などが含まれます。

また、設備の交換には総額で50~100万円程度の費用を見込む必要があります。具体的には、キッチンの取替えに30~50万円、ユニットバスの交換に40~60万円、洗面台の交換に15~25万円程度が一般的な費用となります。

これに加えて広告費として5~10万円、仲介手数料として家賃1カ月分(例えば家賃10万円の物件であれば10万円)が必要となります。

運営費用(管理費・修繕費等)

毎月発生する運営費用についても、しっかりと把握しておく必要があります:

賃貸運営における毎月の固定費として、まず管理費が8,000~1万5,000円、修繕積立金が1万~2万円程度必要となります。これに加えて、年間で1万5,000~2万円程度の火災保険料が発生します。

管理会社への委託費用は、運営形態によって大きく異なります。通常の管理委託の場合は家賃の5~8%程度、サブリース契約の場合は家賃の15~20%程度を見込む必要があります。

また、固定資産税・都市計画税として、固定資産評価額の1.4%程度が年間で発生します。

予備費の設定

突発的な修繕や空室対策として、以下のような予備費を設定することをおすすめします。

安定した賃貸運営のためには、適切な予備費の設定が重要です。一般的な目安として、年間家賃収入の10~15%程度を予備費として確保しておくことをおすすめします。

また、将来の大規模修繕に備えて、毎月の家賃収入の5%程度を別途積み立てておくことで、突発的な支出にも対応できます。さらに、空室対策として3カ月分の家賃相当額を手元に確保しておくことで、安定した運営が可能です。

税金の取り扱い

賃貸収入に関する税務処理は非常に重要です。適切な処理により、節税効果を最大限に活用できます。

確定申告の必要性

賃貸収入が年間20万円を超える場合、確定申告が必要です。

また、確定申告の提出期限は毎年3月15日までとなっています。申告の際には、収支内訳書、領収書・請求書、賃貸契約書のコピー、固定資産税評価証明書などの書類を準備する必要があります。

これらの書類は、収入と経費を正確に証明するために重要ですので、日頃から適切に保管しておくことをお勧めします。

経費計上できるもの

賃貸収入から控除できる主な経費は以下の通りです。

1. 減価償却費

  • 木造建築物:耐用年数22年(償却率0.047)
  • 鉄筋コンクリート造:耐用年数47年(償却率0.022)
  • 設備等の償却率:
    •   エアコン:6年(0.167)
    •   給湯器:8年(0.125)
    •   システムキッチン:9年(0.111)

2. 修繕費

  • 100万円未満の修繕:全額経費計上可
  • 100万円以上の修繕:資本的支出として減価償却

3. その他の経費

  • 管理費・修繕積立金
  • 火災保険料
  • 管理会社への委託費用
  • ローン支払利息
  • 固定資産税・都市計画税

節税対策のポイント

効果的な節税対策として、以下のような方法があります。

1. 青色申告の活用

最高65万円の特別控除が可能

要件:事前の青色申告承認申請、複式簿記での記帳

2. 固定資産の区分処理

建物本体と設備を分けて減価償却

設備は耐用年数が短いため、早期の経費化が可能

3. 経費の計上時期の調整

修繕費用の計上時期を収入状況に合わせて調整

大規模修繕の分割実施による経費の平準化

6. 賃貸運営での注意点

賃貸運営を成功させるには、様々な側面での適切な管理が必要です。

入居者対応

入居者との良好な関係を維持することは、安定した賃貸運営の鍵となります。

入居者の選定基準

入居者選定は賃貸運営の成功を左右する重要な要素です。入居希望者の収入については、家賃が月収の25~30%以内に収まることを基準とするのが一般的です。

職業面では、安定した収入が見込める正社員を優先することで、家賃の支払い遅延リスクを軽減できます。また、物件の広さに応じた適正な入居人数制限(例えば1LDKの場合は2名まで)を設けることも重要です。

さらに、保証人の確保または保証会社の利用を必須条件とし、反社会的勢力との関係がないことを確認することで、将来的なトラブルを防げます。

トラブル対応の準備

一般的なトラブルへの対応方針を事前に決めておくことが重要です。

家賃滞納対応

  • 1カ月目:電話による督促
  • 2カ月目:内容証明郵便の送付
  • 3カ月目:法的措置の検討

騒音苦情への対応

  • 注意書面の送付
  • 防音対策の提案
  • 悪質な場合は契約解除も検討

緊急時の連絡体制整備

  • 24時間対応可能な管理会社との契約
  • 近隣の工務店との提携

契約更新時の対応

契約更新時には以下の点に注意が必要です。

  • 更新料:家賃1カ月分が一般的
  • 家賃改定:市場相場を考慮した適切な設定
  •  設備更新の検討:長期入居者への配慮
  •  契約条件の見直し:必要に応じた修正

建物・設備管理

建物や設備の適切な管理は、資産価値の維持と入居者満足度の向上につながります。

定期的な点検の重要性

以下のような定期点検を実施することをおすすめします。

設備点検:年2回

  • 給湯器
  • エアコン
  • 換気設備

建物点検:年1回

  • 外壁
  • 屋上防水
  • 配管設備

消防設備点検:年2回(法定点検)

修繕計画の立て方

計画的な修繕により、費用の平準化と資産価値の維持が可能となります。

1. 短期修繕計画(1~3年)

  • 設備の更新
  • 内装の補修
  • 小規模修繕

2. 中期修繕計画(3~7年)

  • 給排水管の更新
  • 外壁の補修
  • キッチン・浴室の更新

3. 長期修繕計画(7年以上)

  • 大規模修繕工事
  • 耐震補強
  • 全面リノベーション

長期的な資産価値の維持

資産価値を維持するための重要なポイントは以下の通りです。

7. 将来的な検討事項

長期的な視点での運用方針の検討も重要です。

売却のタイミング

将来的な売却を考える場合、以下の要因を考慮する必要があります。

市場動向の見方

不動産市場の動向を判断する際の主なポイントは以下の通りです。

  • 地域の再開発計画の有無
  • 人口動態の変化
  • 地価の推移
  • 金利動向
  • 不動産投資市場の状況

築年数との関係

築年数による影響を考慮する必要があります。

  • 築20年まで:比較的高値で売却可能
  • 築30年前後:大規模修繕のタイミング
  • 築35年以降:建替えや売却の検討時期

自己使用への切り替え

賃貸運用から自己使用に切り替える際の注意点について解説します。

契約解除の手順

賃貸借契約の解除には、以下の手順が必要です。

1. 解約告知

  • 期間満了の6カ月前までに通知
  • 正当事由の具備
  • 立退料の検討

2. 物件の確認

  • 原状回復の範囲確定
  • 修繕必要箇所の特定
  • 費用見積もりの取得

リフォーム計画

自己使用に向けたリフォームは、以下の点を考慮して計画します。

  •  必要な設備更新の洗い出し
  •  間取り変更の検討
  • 予算設定と工期の確定
  • 工事業者の選定
  • 近隣への配慮

以上、分譲マンションの賃貸運用について詳しく解説してきました。適切な準備と運営により、安定した収入を得ながら資産価値を維持することが可能です。

ただし、市場環境や法規制は常に変化しているため、定期的な情報収集と必要に応じた運営方針の見直しを行うことが重要です。